今宵も、月と踊る


「俊明さん、この間はありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ」

こっちの心境などそっちのけで会話は和やかに進んでいく。気配から察するにふたりはかなり親しいようだ。

月岩神社の催しで舞手を務めていた志信くんと楽人の俊明さんに、同じ舞台に立つ者同士、交流があってもおかしくない。

……おかしくはないけど、先に言っておいて欲しかった。

「今日はおひとりですか?」

「連れがいますよ」

急に話題が振られて肩がビクリと震えた。

おいおい、何のために隠れたと思っているんだ。

(このタイミングでそれ言っちゃうか!?)

こんな短時間で心の準備など出来ているはずがない。

「隠れてないで出て来いよ」

挨拶するように促されると、いつまでも隠れている訳にはいかなかった。おずおずと志信くんの腕を掴んで、顔を覗かせる。