「あ」
「遅い」
志信くんはそのまま私の手を取って三好屋へと歩き出してしまった。
(うう……。なんか照れる……)
手を繋いで歩く。
ただ、それだけの事なのにこんなにもドキドキと胸が高鳴るのは、久し振りに男の人と手を繋いだからだと思いたい。
「わ……私も行かないとダメなの?」
「ああ」
「ど、どうしても?」
「どうしてもだ」
志信くんは私が嫌がる態度を見せても、頑として譲ろうとしなかった。
……困った。
ここは、若女将と友達だから三好屋へは一緒に行けないと正直に話すべきだろう。
「あのね……実は……」
「いらっしゃい、志信くん」
私が口を開いたのと、店先の掃除をしていた俊明さんが志信くんに気が付いて声を掛けたのは、ほぼ同時のことだった。
私は咄嗟に志信くんの背後に隠れた。
幸いなことに、事の発端、元凶とも言える高身長ハイスペック男のおかげで、私の身体はすっかり俊明さんから見えなくなった。
志信くんは挙動不審になった私に対して思い切り眉をひそめたが、俊明さんへの挨拶を忘れることはなかった。



