(やだなあ……)
橘の痣が出来てから数か月しか経っていないというのに、今まで作り上げてきた自分という存在が“カグヤ”に塗り替えられていく嫌な感覚がする。
このまま、息も出来ないほど深く深く堕ちてしまったらどうなるのだろう。
私は今までの私と同じでいられるだろうか。
“カグヤ”の証がやたらと痛んで、思考の邪魔をしてくる。
「どうかしたか?」
私を現実に引き戻したのは、頬を撫でる志信くんの細い指先だった。
「ううん。何でもないの」
何事もなかったかのように笑って取り繕うと、志信くんに尋ね返す。
「今からどこに行くの?」
「知り合いの店だ。用が済んだらあんたの行きたいところに連れっていってやるから考えておけ」
「ありがと」
デートと言うからにはプランが決まっているのかと思ったら、そうでもないらしい。
私にとっては久し振りの外出ということが考慮されているのか、単にご機嫌を取ろうとしているのか。



