今宵も、月と踊る


志信くんの運転する黒色のスポーツカーは滑らかに発進した。

急ブレーキでガクンと前のめりになることもない。本人が宣言したように安全運転だ。

強いて言うなら左ハンドルというのが気になる点ではある。

大学生という身分で左ハンドルの外車を乗り回すなんて、やっぱり橘川家はお金持ちなのか。

私はちらっと運転する志信くんの横顔を盗み見た。

(くっそう……)

お金持ちの上に、悔しいほどに顔立ちが整っている。

……しかも、好みのタイプだったりするから余計に腹立たしい。

和装も似合うが、黒のジャケット、Vネックのカットソーという今時の若者の格好も、上背があって細身の体型の志信くんには良く似合っていた。

(こうしていると普通の男の人みたい……)

私は……心のどこかでホッとしていた。

当たり前のことを忘れかけるほど、私は“カグヤ憑き”と“カグヤ”にどっぷり浸かってしまっている。

そのことに気が付いて愕然とする。