“異変”が起きたのは、志信くんが舞い始めて数分後のことだった。
(何だろう……)
私は異変に気が付くと、志信くんから庭園に視線を移した。
……池が光っている。
もちろん、月明かりなどではない。いくら満月とはいえ、橘川家自慢の池全体を光らせることは到底不可能だからだ。
その正体を探ろうと目を凝らすと、金色の光の玉が幾つも幾つも池から湧き出てくるのが見えた。
思わず悲鳴を上げそうになって、必死になって堪える。
志信くんはまだ舞い続けているし、立ち会っている3人の人間は誰一人として事態に気が付いた様子はない。
(見えていないの?)
光の玉は池だけでなく、庭園の至るところから湧き出てきている。あっという間に本宅の中が金色の光で溢れ返った。まるで、昼間のような明るさだ。
(これは……何なの……?)
光の玉の存在に怯える私の耳に、志信くんの声が届く。
“大丈夫だ。それは俺が呼んだものだ”
そう伝えると志信くんは榊を振りだして、光の玉を少年へと導いていく。
光の玉は次々と少年の小さな身体の中に吸い込まれていくと、最後にはひとつ残らず消えてなくなった。



