今宵も、月と踊る


「都築さん、こっちの書類終わりましたよ」

「ありがと、桜木さん。こっちももう終わるから先に帰って良いわよ。あ、ついでにこれも持って行ってもらえる?」

都築さんはパソコンのディスプレイから目を離さずに言うと、脇に置いてあった処理済みの領収書の束を指差した。

「分かりました」

自分の分と合わせてデスクの上でトントンと書類の位置を整えて、社長決裁待ちのレターボックスにまとめて置いておく。

コートを羽織ってバッグを肩に引っ掛けると、フロアに残っている人に一声かけた。

「じゃあ、お先に失礼します」

定時はきっかり18時。本日も残業決定の技術チームには悪いけれど、仕事が終わったらさっさと帰ることを信条としている。

無駄な残業をしないことは、経費削減にもつながる。

疲れたなあ、なんて一端の社会人ぶってしまうのはもうお約束のようなものだ。

元気な時は駅ビルで買い物をすることもあるけれど、今日は真っ直ぐ帰宅することにする。