天使の頬に優しいキスを




「…あ、あったよ」

その声とともに、先輩が私の学年カラーである

深緑色の校章を手にとって

私に見せた。


ほっとして、先輩の元へ駆け寄る。


「はい。…見つかって良かったね」

先輩が私の手にそっと校章を置いた。


私は大事に握り締め

「ありがとうございます」

深く頭を下げた。

「いいよ、いいよ。ほら体育館行かないと」

先輩はまた、優しく微笑んだ。

周りを見るとさっきまで人がたくさんいたのに、

ほとんど誰もいなくて

私は急いで体育館へ向かった。




自分のクラスの塊を探していると、

先に座っていた明が手を振っていた。

そこだけぽっかり空いている、恐らく私の席であろう所に向かって座った。


遅かったじゃん、口をパクパクさせて言う明に

理由は後で話すよ、と心で呟きながら

頷いた。


「…では、これから入学式の方を始めさせていただきます」


おじいちゃん先生の、ゆったりした声で

式は始まり

校長先生の話や、PTAの方の話、

まぁ、どれも長くて、だるくて適当に聞き流していた。


「生徒会長の言葉。

本校生徒会長、櫻井誠くん」


その言葉に、はっとして顔をあげる。


「…はい」

その声に、はっとして彼を探す。


壇上に上がる姿を、前の人の頭の隙間から

小さく、でもはっきりと見た。


「新入生のみなさん、入学おめでとうございます」


マイク越しにしゃべる人は、

さっき助けてくれた先輩だった。

驚いた。まさか、生徒会長とは思わなかった。

生徒会長って、勝手にだけど

もっと堅苦しくて、メガネで、

真面目って言葉が一番に似合う感じだと想像していたけど、

先輩は違った。

真面目そうだけれど、それよりももっと

違う言葉が先に出てくる。

例えば、カッコイイとか、キラキラとか、

アイドルっぽい雰囲気で


きっとモテる。

そんな感じ。


ブレザーについている、先輩が見つけてくれた

校章を触る。


それだけで、顔が思わずニヤケてしまいそうなくらい

先輩の優しい笑顔が鮮明に映し出される。

壇上から去ろうとする先輩を目で追いかけると、


ほんの一瞬、先輩と目が合ったような気がした。







中学の入学式、

私は生徒会長に恋をした。