仲のいい姉妹

近所の人からも、親戚の人からも

いつもそう言われていた。


私は姉が好きだった。

いつも姉と遊んで、姉の真似をしていた。

喧嘩はほとんどしたことがなかった。


けれど、私が中学に入学してから

私達の関係性は大きく変わってしまったのだ。





「泉!同じクラスだよ!」


満開の桜が咲き誇る入学式。


「本当に?…やったね」


親友の明(めい)と抱き合って喜んだ。


ここから始まる中学生活。

新しい第一歩に


不安もありながらも、キラキラと輝く希望に満ちていた。


「…新入生のみなさんは体育館へ向かってください」


同じ制服を着た先輩が誘導していた。


お母さんと来ていた明は

先に行ってしまい、


私の母は仕事で来られなかったので、一人で

体育館へ向かった。


「配られた校章を必ずつけてくださーい!」


体育館へぞろぞろ向かう同い年の人とその親御さんに揉まれながら

私は校章をつけようとしたのだが、


「……わっ、」

隣を歩く、体の大きい男子とぶつかって


よろけてしまい、倒れるかもっと思った瞬間

誰かの腕の中にすっぽりと包まれた感覚がした。


驚いて、顔を上げると


「大丈夫?」


「…あ、……はい。ごめんなさい!」


思わず見とれてしまうほどの整った顔


「まだ時間はあるので、押さないで

ゆっくり進んでください」


ちょっとハスキーだけど、低めの声


「怪我してない?」


私に向けられるその瞳に、ドキっと

心臓が鳴った気がした。


「…はい。ありがとうございます


私を支えてくれていたその人の体から離れると、

「あれ!?」


さっきまで握りしめていた校章がないことに


気がついた。


「ん?…どうしたの?」

私より数センチ大きい先輩が隣にいた。

「…校章が、」


「ん?」

人混みの中、私の声が届かなかったみたいで


先輩は私の背に合わせて屈んで

耳を近づけた。


お父さん以外の男の人と

こんな間近で話したことがなかったから

それだけでドキドキしてしまう。


「…校章が、なくなってしまって」

私の声がかき消されないように

頑張って、大きな声を出した。

「…まじか! どこだろ」

先輩はすぐに


床に這いつくばってまで、探してくれた。


「─ちょっとー櫻井!」



櫻井、と呼ばれたその先輩は


「悪い、今ちょっと手が離せない」

私より一生懸命で


「私大丈夫ですよ。…自分で探せます」


私がそう言っても

「大丈夫じゃないでしょ。一緒に探すよ」


優しく微笑みながら言ったこの人に


自分でも呆れるくらいなんだけど


私の心はときめいた。