遠目に見たあなた


「佳澄!流石に早いなー」
「髪、若干乾いてませんよ」

くすり、と笑って最低限の荷物が入ったリュックからタオルを取り出してえい、と綿貫の髪を拭く。多少乱雑だが男相手だ、問題ないだろう。



「まだ時間の10分前なんですから、乾かしても良かったんですよ?」
「だってお前早く来るからさ、あんま待たせたら悪いだろ」
「私が早く来ているのは勝手ですから、気にしなくてもいいんですけどね」

にこりと笑いながら伝えてタオルを引っ込める。あらかた水気も取れたろう。拭いた面が外に出ないようにしつつ綺麗に畳んでリュックに戻す。



「あ」
と、綿貫が口を開きかけたその時。

「佳澄さんっ」
はぁ、と少し息を切らしながら氷見さんが登場した。
少し汗が滲んでいたから、寝坊でもしたのかもしれない。


「……佳澄?」

ちょっと不機嫌げに私の名前を呼ぶのは綿貫。

彼も大概に天邪鬼なひとだ。


「いいじゃないですか、少しぐらい」

にこり、といつも通り笑ってみせた。