遠目に見たあなた

【氷見凛花side】

そうして鞄を持った私は佳澄さんのところまで行く。
女の子に囲まれていたから話しかけづらかったけど、話しかけるまでずっと女の子がいるのは経験上分かってる。
無理矢理割り込んで私は彼の名前を呼んだ。





佳澄さんが興味もないだろう話題を話してしまっても楽しそうにしていてくれる彼に感謝しつつ、この他愛もない会話をどこで切って、本題に移るか。真剣に悩み始めていたところ彼から声がかかる。

「今日は如何なさいました?」

一種、口癖みたいな言葉を吐き出す。
少しだけつらそうに歪められた形の良い眉が気になったけれど、すぐにいつものにこやかな笑みに変わったし、気のせいだろう。





「……えっ、と。ね……」


話し始めたのはいつもみたいに、悪口言ってしまうこと、過度な暴言を言ってしまうこと、でもあいつだって言ってきたって、自分に反論してから、勝手に落ち込んで。
そしたら佳澄さんが頭撫でて微笑んでくれた。
そして最近の悩みを話した。


「……映画、ですか?」

そう聞き返してきた佳澄さんにこくんと頷く。
「……母さんが職場の人にもらったってチケット、このままじゃ無駄になっちゃうし……」
自分でもわかるほどあからさまにしりすぼみになっていくのが分かる。そんなの、言い訳だ。
悠一とどこかに遊びに行きたい、ただの、口実。


どうしてこんなに私って馬鹿なんだろう……今更ながら涙が出てくる。
好きだって気付けてなお、何も出来ずに手をこまねいてる。そして佳澄さんにそういうのぶつけて。なにしてんだろ私……。


佳澄さんを前に本気で落ち込み始めた私を前に佳澄さんは少し思案に顔を曇らせた。


そしてたっぷり数秒考え込んで、スマホの画面を開いたようだった。



「……か、すみさん……?」


何やってるのかがわからなくて首をかしげると佳澄さんがしー、といたずらっぽく笑みながら薄い唇に人差し指を申し訳程度に当てる。

……この人はこの人で、女の人より綺麗なのよね。男性らしさはあるし、間違えられることはないと思うけど。

なんだか釈然としない。






私に背を向けて空を見上げながらスマホを耳に押し当てた彼を、ただ呆然と見る。

「…………あぁ、よかった。出てくれたんですね。はい。…………はい、あぁ、用件なんですが。明日空いてませんか。……空いてる?良かった。遊びいきましょ?……えぇ、はい。では、駅前でお願いします。……はい。…………えぇ。それでは」

通話を終えたらしい佳澄さんがこちらを向いた。


「あの、それ……」
「明日。約束取り付けちゃいました」



にこやかに、爆弾を落としていく彼に少しのめまいと感謝を覚えた。