部活の練習後は、必ずしも徹の家に遊びに行く。両親が共働きな私の家だからしょっちゅうだ。軽く徹のお母さんに挨拶すれば、にこやかに返事が帰ってきた。
「へへっ、やっぱ徹のお母さんいつみても綺麗だなぁ」
「ただの年取ったおばさん。ほら、ここ座って。」
部屋に入れば定位置に座らせられる。徹の隣に座り手を差し出した。野球専用籠から何かを取りだし、私の手を優しく取る。
いつもそう、こんなとき女扱いする。
普段なら馬鹿だのはしたないだの、すぐ叩くし、暴言吐くし、むかつく顔だし、意地悪な男。なのにこういうときだけ、ずるい。
「なぁ、未来。」
クリームを適量取りだし私の手に滑りこむ。大きな手はやわやわと私を包みゆっくりとマッサージをし始めた。
「お前、上手くなった。」
その話が野球関係なことだとすぐに分かった。
「あったりまえじゃん!!」
「急速はまだまだだけどな、」
「ううっ…まぁ、頑張ります。」
ふっ、と徹は笑みを見せる。
その笑みがとても悲しそうで、苦しそうだ。