「氷河さま…!」

入ってすぐ、床に倒れ伏している氷河を発見し、慌てる。

「月、那…?」

月那の声に反応し、氷河が身体を起こした。

「氷河さま!大丈夫ですか?」

苦しげに呻く氷河に近寄る。

「なぜ…来た…」

「氷河さまが…心配で…」

一佳を殺した吸血鬼は恐ろしい。

あの惨劇を思い出すだけで吐き気がこみ上げる。

しかし、それ以上に氷河のことが愛おしかった。



――安心しろ月那。お前を傷つける奴には…俺がこうしてやるからな



あの時、彼はそう言った。

月那が大好きな笑顔で。


「氷河さま…私のために……ありがとうございました」


一佳を殺してくれてありがとう――という意味ではない。

いくら自分をイジメていた相手だったとしても、小さい頃からずっと一緒だった一佳の死は悲しい。

「氷河さまの気持ち、うれしかったです」

月那を危険から守ろうとしてくれた。

その気持ちが嬉しい。

たとえその結果として、人が一人死んでしまったとしても。


「……そうか」


氷河は小さく笑った。

が、それも一瞬。

すぐに眉間にシワを寄せる。

「あっちへ行け。今、俺に近づくな…。一週間の断食で、血に飢えている…」