そのホテルは人通りの少ない道路沿いにあった。噂には聞いているが、実際に見るのは皆初めてだった。車を停めた先輩は「ここだ…。」
と一言言って皆を見回した。
「皆、大丈夫か?引き返すなら今のうちだぞ。」さすがに本物を見たら恐怖感が沸き上がってきているが、ここまで来て戻るのも気が進まなかった。
「さぁて、行くか!」
恐怖感を振り払う様に先輩はわざとおどけて言うと運転席を降りる。それにつられる様に皆、車から勢いよく降りる。しかし、一番奥に座っていた女が何故か動かなかった。
「おい、何してんだよ。寝てるのか?」
「置いて行っちゃうぞ?」
その女の子は少し間を置くと、さっきまでの車の中のテンションからは想像もつかない低く、小さな声で
「私、行かない」
と呟いた。
「何言ってんだよ、皆行くんだぞ。」
「そうだぞ、車に一人の方が怖いぞ~。」
皆外に出る様に言うが、その娘は急に首を激しく横に振り
「私は行かないの!!」
と怒鳴ったのだ。さすがにその娘の激しい反応に皆は一瞬、狂気を感じ呆然としたが、ムキになった先輩が
「わかったよ、じゃあお前だけ留守番してろよ」と言い、歩きだしてしまった。