向こうは、郷でも指折りの大貴族。
柚月の言動で、彼女や東雲に迷惑がかかる恐れもあった。
やはり、自分は指示された通りの仕事をこなせばいい。
それこそ、意志を持たない人形のように。
じわりと湧いてくる悔しさに歯噛みすれば、
《わかりました、柚月》
不意に名前を呼ばれ、ハッと顔をあげる。
《それならば、私のことを『六香』と呼んでくださいますか?》
目の前には、人形のような美女がいる。
作り物めいた美しさに、かすれた声が洩れた。
「……りっか……?」
《私の幼き日の呼び名です。今現在では、それを知る者はおりません。『苑依』は斎宮の地位を賜った時にいただいた名前ですので》
役目を与えられた時に、捨てた名。
ほんの少しの寂しさと、愛着が見え隠れする。
彼女にとっては語りにくい内容だろうに。
それでも教えてくれた理由は、察しがついた。
柚月は照れたように笑うことしかできない。
「ありがと……六香」
苑依は、柚月の意を汲んでくれたのだ。
私という人間を見て。
あなたと対等な立場を築きたい。

