東雲の猛毒のせいか、あの貴族は放心状態になった。
従者たちに抱えられて歩く情けない後ろ姿に、柚月は眉をひそめる。
「なによ、あれ……」
しょぼい連中だ。
もう少しビビらせてやりたかったのに。
いっそのこと、騒ぎの発端になった牛車でも壊してやればよかったか。
などと、過激なことを考えていると。
脇腹に妙な感触がした。
「ひゃんッ!」
くすぐったくて、柚月は飛び上がりそうになる。
振り向くと東雲の仏頂面があった。
彼に背後から撫でられたのだ。
「余計なことに首を突っ込むな」
眠たげな漆黒の瞳が、明らかに不満げだった。
当然だろう。
農民の姉弟たちを放り出して来てしまったのだから。
あの貴族も東雲の顔を知っている。
後で仕返しするかもしれない。
一応は、助けてはくれたのだろうし。
結局、東雲に迷惑をかけただけだ。
「悪かったわよ……でも」
多少の負い目があるものの、柚月は食い下がる。
どんな世界だって、子供を理不尽に扱っていいはずない。