「今年もクリぼっちですか……」


あたしは一人溜息を付く。


今は高校の帰りのHRが終わったところ。


彼氏がいた事なんて一度もありません。


あたしはもう一度溜息を付いて下駄箱に向かった。


親友のさっちゃんは1ヶ月前につきあい始めた彼氏の家でラブラブするって。


その他の友達も皆彼氏持ち。


羨ましい限りですわ。


あたしはまた溜息を付きながら下駄箱を開けた。


そこには、


「嘘でしょ?」


水色の手紙が入っていた。


一度閉める。


パタン


もう一度開ける。


「消えてない」


当たり前か。


そこには、やっぱり水色の手紙が入っていた。


取り敢えず手に持ってみる。


表には、「中原美希さん」と、丁寧な字で書かれていた。


「中原美希」は間違えなくあたしの名前。


まさか、人生初のラブレターというものでは?


あたしの頭の中は今ちょっとしたパニック状態。


いや、でもパニックって事に気づいているって事はパニックじゃないのか?


まぁいいや。


とにかく誰もいないところで読んでみよう。


あたしは急いで靴を履くと、校舎の裏側にある誰もいない場所に向かった。


かさりと手紙を開く。


「中原美希さん


急な手紙ですみません。


僕は高校に入ったときから、ずっと美希さんの事が好きでした。


直接思いを伝えたいので、4:30に、校舎の裏側にある木に来てください。


                市原圭」


「市原、圭君?」


思わずあたしは呟く。


そんな人知らない。


じゃなくて、めっちゃ知ってる。


一つ年下の一年生。


さっちゃんが、めっちゃカッコイい子が一年生に入ったって言ってて、見たら、本当にカッコよかった。


それ以来、目で追うようになったんだけど……


まさか、あたしの事を好き?!


夢じゃないよね。


てかてか!


4:30て、あと三分なんですけど!


何て返そう。


喋ったこともないのに付き合うとか、軽い人だって思われちゃうかな?


けど、振ったら振ったで何かもったいない。


その時、


「中原美希さん」


という、声が聞こえた。


後には、手紙の主、市原圭君が立っていた。


「こんにちわ」


凄く爽やかに挨拶をしてくれる。


「こ、こんにちわ」


あたしも思わず挨拶返してしまった。


「手紙、読んでくれたみたいですね」


市原圭君はあたしが持っている手紙を見て、にこりと笑う。


あぁ、もう、カッコイい!


腰パンもワックスもかけないで、しっかりとした制服の着こなしにすらりとした体型。


サッカー部だからか、制服の上からでも筋肉はしっかりついているのが分かる。


二重で、大きな目が、あたしを見てる。


しかも笑いかけてる!


「僕の口から、直接言わせてください」


えぇ!?


今もう言っちゃうの!?


待って、心の整理が!


「中原美希さん、あなたが好きです。僕と、付き合ってください」


ストレートな言葉。


あたしの心にプスッと刺さる。


「あ、あの!あ、あたし、市原君の事、よく知らないし、市原君もあたしの事知らないと思うんだ!だ、だから、友達からでも、いいかな?」


あたしはめちゃくちゃ噛みながらやっと言えた。


もう、自分で何を言ったか覚えてない。


まさか、振ってないよね?!


すると、


「はぁ?」


と、どこからか聞こえた。


な、何?今の背筋が凍り付くような声は。


市原君の口から、あんなおぞましい声が出るはずないよね?


けど、


「あんた何なの?」


と、確かに市原君の口から聞こえた。


「へ?」


あたしは間抜けな声を出す。


ダン!


と音がして、あたしは市原君と木の間に挟まれた。


あたしの肩にぶつかりそうな位置に市原君の手が。


ままま待って!


こ、これは世に言う壁ドンなのでは?!


「あんたさぁ、ウザイぐらい俺のこと見てたじゃん」


今度こそパニックになってるあたしに市原君は言う。


「し、身長高いね」


って、何言ってんのあたし!


だってだって、頭の上から声が聞こえるんだもん!


市原君本当に身長高いんだん!


そんなあたしに、市原君は


「はぁ?」


と眉を寄せる。


どこに行ったのさっきの爽やかイケメンは!


まさに豹変。


「身長とかどーでもいいからさ、あんた俺と付き合えよ」


「へぇ?」


あたしはあまりの豹変ぶりに声も出ない。


いや、出たか。「へぇ?」って。


ダサい。


「どーせあんたクリスマスは一人なんだろ?だから、俺が付き合ってやるよ」


「な、何で?」


恐る恐る聞くと、


「僕、中原さんの事、本当に好きなんで!」


な、何なの?!


さっきまでの爽やかイケメンに戻ってるし!


「だから、俺と付き合えよ。いいな?」


って、また黒っぽい市原君!


顔と顔の距離が、もう10cmもない。


うん。って言ったら、どうなるのかな?


いやだ。って言ったら、どうなるのかな?


結局あたしは、「はい」って言うまで、爽やかイケメンから黒っぽい市原君に、黒っぽい市原君から爽やかイケメンになるのを見せ続けられた。


「じゃあ、今日は僕の家でパーティーをしましょう!」


今度は爽やかイケメンの市原君が言う。


壁ドンは終わっちゃった。


それにしても、疲れた。


「市原君の家でやるの?」


あたしが聞くと、


「だから、覚悟しとけよ?」


って、ほっぺにキスされた。


「な!な!な?!」


あたしがほっぺを抑えてびっくりしてると、


「あはは!中原さん可愛い!」


って、爽やかイケメン。


このやりとりははしばらく続きそうです。