「日向…本当にどうした、何があった」
「先生…」
頭の中で先ほどの別れの曲が鳴り響いていた。
まるで、それ以上言ってはならぬと警告するように。
「好き…。先生のことが、好き」
ピタッと曲がとまった。
先生の動きもまた、とまる。
「憧れなんかじゃない。錯覚なんかじゃない。この気持ちは本物」
「日向、離れなさい」
先生の声が冷たく響く。
それでも、私は止まらない。
「教師とか、生徒とか、関係ない。年の差だって関係ない。それはただの言い訳」
「…それでも、世間には守らなければならないルールがあるんだ」
「それも言い訳。そんなの理由じゃない。もっと物事はシンプルなはずでしょ?好きか、嫌いか、もしくは関心ないか」
「日向…」
「好きだよ、先生。先生は私のこと、嫌い?」
先生の動揺が背中から伝わる。
「本当は言うつもりなかった。今日で最後にするつもりだった。でも先生の別れの曲を聞いて、やだって思ったの」
先生のピアノを弾く姿は悲しいくらい美しかった。
そして私は、どうしようもなく、あぁこの人が好きだ、と感じたんだ。
どこがとか、そんなんじゃなく、この人が好きなんだと。
諦めたくない。この思いを伝えぬまま、諦めたくない。
それくらい、私は先生に本気で惚れ込んでいたんだ。
「初めは一目惚れ。入学式の日。それから先生のこと色々知って、もっともっと好きになった。ピアノを弾く先生が好き。勉強を教える先生が好き。怒ってる時も、笑ってる時も、先生のことがすごくすーーーーっ!」

