ねぇ、先生?


準備室のドアが見えると、私は足を早め、ノックもなしに勢い良くドアを開けた。




「やっほー先生!今朝ぶり!」




勢いよく開かれたドアと、私の姿に先生は驚く………

こともなく、少し眉を寄せるだけだった。




「廊下は走るな。そしてドアはノックしてから開けろ」


「……ちょっとくらい驚いても良くない?」


「足音で、なんとなく分かったからな」





先生はしれっとそう言うと、手にしていた紅茶に口をつける。




「でも驚くかなーって期待したのに。つまんない」


「と、いいつつ、内心では足音で判断されたことに喜んでいるのだろう?」


「…よくお分かりで」


「当然だ」





あまりに的確に図星を刺されたので、苦笑いをすると、先生は勝ち誇ったようにニヤリと口角をあげた。





「それで?どうした」


「奈緒が彼氏とご飯だっていうから。先生んとこで食べようと思って」





くいっとお弁当を持ち上げれば、なるほどな、と先生は頷く。





「俺に作ってきたわけではないのか」


「え、食べたかった?」


「いや、冗談だ」





今度作ってくるよ、といえば楽しみにしている、と先生は返した。

そんな何気ない、普通のカップルのような会話が愛おしく感じて、おかずを摘みながらふふっと笑えば、何だ?と先生が首を傾げた。




「いや別に」


「ほう、そうか。ではこれはいただく」


「あ!最後に食べようと思ってた玉子焼き!」





ひょいと手で掴むと、先生は玉子焼きをもぐもぐと食べてしまった。

せっかく綺麗に焼けてとっておいたのにな。

恨みがましい視線を送れば、してやったりというような視線で返された。
(…きっとこの先私はこの人に敵うことはないんだろうな…)




「もー!……美味しい?」


「あぁ、とっても」




ならいいや、と笑えば、ポンポンっと頭を撫でられた。

それが嬉しくて、少し恥ずかしくて、私はうつむく。

きっと顔赤い。

こういうの、子供扱いされて嫌いって人もいるけど、私は頭を撫でられるのがとても好きだった。