この1年を振り返ると、いや、3年間を振り返ると、本当に色々なことがあった。

音楽準備室の窓から外を眺めて、私はそんなことを考えていた。

まるでどこぞの三流小説のような言い回しになるが、辛いことも、楽しいこともありすぎるぐらいあった。

もしも私がこの学校を選ばなかったらどうなっていただろうか。

中には「こんな学校選ばなきゃよかった」という子もいるが、私はそんなことは決して思わない。

この先どんなことがあっても。





「何を見てるんだ?」





突然、背後からそんな声がして、私は振り返る。




「蒼井先生」




そこには予想通りちょうどドアに手をかけた先生が立っていた。





「今日は早いんだな」


「うん、なんとなく」




先生は自分の机にカバンを置くと、私の隣に立つ。




「明日か」


「うん。なんかあんまり実感ないや」


「俺もだ。ここに赴任してからもう3年か。あっという間に俺も30を越してしまったな」


「男の人は30からだよ。それにダンディでイケメンなおじさんになるから大丈夫」


「そう言う問題か?」


「そう言う問題」




先生の顔を見つめ、そう言って微笑を浮かべれば、先生も同じように微笑み返してくれた。

そして2人して、再び窓の外に目を向ける。

少し手を伸ばせば、同じように伸ばされた彼の手にあたり、その長く細い指に自分の手を絡ませる。

先生の大きな手に、優しく、強い力が加えられる。




「…明日か」




もう一度、今度は重く呟かれた言葉。

私はそれに答える言葉が見つからず、代わりにキュッと指に力をこめる。

すると応えるようにギュッと、先生の手にも力がこめられた。

それが嬉しくて、幸せで、頬がほころぶ。



許されないことだと、十分分かっていた。

それでも私達はひどく幸福で、それ以上は何も望まないくらい、互いを求めた。

例えそれが、神様を怒らせてしまうことだとしても。