好きになんか、なってやらない

 




「で?どうしてあなたがここにいるんですか?」


一人駅へと向かったはずなのに、なぜか満員電車の自分の前に立つ一人の男。


「だって二軒目とかだりーから。早く帰って寝たいの」


あくびをしながら、向かい合うようにして岬さんがいた。


香織に捕まって二軒目に向かってたはずなのに……。
振り切って帰ったっていうの?
普段なら、女好きのせいか、いつもにこにこ相手にしてるくせに。


「くっつかないでください」
「無理言うな。満員電車だっての」


嫌でも密着をしてしまうこの距離。
なら、どうして同じ車両の、こんな近くに乗り込んだのか……。


「玲奈」
「なんですか?」
「キスしていい?」

「はあ!?」


あまりにも突然の発言に、目を見開いて顔を上げた。


「やっと取り乱した」


だけどそこには、ニヤリと勝ち誇ったような笑みを向ける岬さんが……。


「お前、冷静すぎてムカつく」
「……」


冷静に対応しているのはわざとだ。
だからこそ、つい素で驚いてしまったことに腹が立った。