母の形見だと言っても、片方のピアスが凌太の部屋にあったのは事実。
そしてそれを渡しに会いに来たのもきっと事実。
「凌太と別れようと思って最後に訪れたときね……
わざとこのピアスを片方、凌太の部屋に置いて行ったの。
最後の悪あがき。
いつか絶対にまた、凌太のもとに戻ってくるつもりだったから、その日まで持っていてもらいたくて……」
「……」
「凌太も知ってたから。
このピアスが、あたしのお母さんの形見だってこと。
だから置いていけば、絶対に捨てられないって分かってた」
そう言って、悲しげに微笑む美空さん。
今、こうやってその時の話を私に明かしている意図もよく汲み取れなくて、ただ美空さんの言葉を聞いていた。
「バカみたいに、凌太は捨てずに持っていてくれてた。
だから返して、って言ったの。凌太に……。会える口実として……。
だけど………」
そこまで言ったときには、美空さんの目には涙が溜まっていた。
悲しさと
悔しさが入り混じった笑顔を浮かべる。
「ムカつくから、それ以上先は言ってやんない。
ここから先は、自分でなんとかすれば?」
「え?」
だけどニッと笑うと、いつもの強気の美空さんが私を見上げていた。
正確には分からない。
けど……
もしも凌太が、美空さんにピアスを渡しに来た理由が
ただ、お母さんの形見であるものを返したかっただけの理由なら……?

