オヤスミナサイ~愛と死を見つめて~

「2名で」

「ご新規2名様、お通しします!」
 
おばちゃん店員が、私たちを案内する。

「カウンターでよろしいですか」

「はい」
 
涼くんは私の意見など聞かずに、さくさくと物事を進める。
 
エスコートもしないで、先に席に座る。
 
別にエスコートしてほしいなんて思ってないけれど。
 
まるで、ケンカ中のカップルみたいだ。
 
口数も少ないし、私を気にかける様子もない。
 
このひとはどうして、私と会いたいなんて思ってくれたのだろう。

「生ビールふたつ」

「少々お待ちくださいませ」
 
私が席に座る前に、店員さんにオーダーを言い渡す彼。
 
夢くんだったら、私が席に座るまで待ってくれて、おしぼりまで渡してくれて、オーダーもじっくり私に決めさせてくれる。
 
それが優しさだとは思わないけれど、涼くんは夢くんと真逆だ。
 
今も、ほら。私に渡すことなく、自分でメニューを見て思案している。
 
マイペースなひとだなぁ。

「お待たせいたしました。ビールとお通しです」
 
私の前にビールと小鉢が置かれる。

「はい、どうぞ」
 
私はそれを涼くんの前に置いてやる。

「サンキュ」
 
あ、喋った。微かに笑みまで浮かべてくれる。
 
何だ、笑えるんじゃない――。

「注文いいですか」

「はい」

「もろきゅうと、たこわさ、ほっけの開き、卵焼き」

「はい」

「それと、ぼんじりとねぎまとなんこつ、全部塩で」