それは月のない夜だった

雨は激しく打ち付け、風が家を震わせる

だが時折激しく光る雷が月の代わりに夜
を照らすそんな夜だった

「ガチャン」

と何かが落ち、割れる音が頭に響きつり目の青年ー月島竜也ーは目を覚ました

激しい音を轟かせる雷ですらこの青年の耳には入らなかったが何故かその音だけは青年の眠りを妨げた

竜也の家は両親が早くに亡くなり姉と祖父の3人暮らしだった

いつも早寝早起きの姉と祖父しかいない家でこんな音がこの時間に鳴るのはおかしいと感じ、竜也は音の真相を確かめに行く

「寒っ…」

もう桜が咲き始めたとはいえ丑三つ時の廊下は容赦なく冷気を手足の先に叩きつけてくる

手をポケットに入れながら音の発生した居間に向かう

暗がりのなか廊下の電気をつけようとしたがスイッチは反応しない

落雷による停電だろう

気にせずそのまま進むと居間の扉は開いていて人の気配があった

不審に思うも姉か祖父だろうと中に入る

予想は違わずそこにいたのはその二人ともであった

しかし稲光で部屋が明るくなった瞬間飛び込んできたのは

姉が祖父を何かで刺し貫いていた光景だった

「…………」

祖父は姉に何か言っているようだったがかすれていてなにも聞こえない

「な、姉ちゃん…!?」

「あー、たっちゃん起きちゃったんだ。ごめんごめん」

ふざけた調子で喋る姉だが顔は全然笑っていない

呆然とする竜也を尻目に姉は祖父から凶器を雑に抜き、呑気に続ける

「この傘は私のであんたのはそっちのだってさ」

と手に持った、先程まで祖父を貫いていた傘らしきものでテーブルの上を指す

そこには赤黒く光る指輪が1つ置いてあった

「は?なんのことだよ、てかそれより救急車呼ばないとじーちゃんが…」

そこでふと祖父に目をやるが刺し貫かれていた祖父からは一滴も血が流れていなかった

「え、これどういうことだよ姉ちゃん!!?」

声を荒らげて姉に言い放つ竜也だが姉は質問に答えない

「うーん、まあ近いうちにわかると思うし、今は言わない。じかんないし。あとお姉ちゃんはちょっと出かけるから寂しいからって泣いちゃだめだぞ?それと…ごめんね」

そう言って持っていた傘を竜也の即頭部に叩きつける

その一撃で竜也は一瞬で地面に倒れ伏す

倒れた直後、家の中だというのに顔に水滴が垂れるのを感じとり意識は闇の中にすいこまれていった