離れていく靴音。ううん、あれは恋が去って行く音…。

『いいのか…?言わなくて…』

朔の声がした。…気のせいかもしれないけど…。

「いいの…言わない方がいいの…私…」

ポロポロ零れ落ちる涙。二度と流したくなんかないと思ったのにーーー

「私…あの人の足枷になりたくないから……」


想いを伝えて、行かないでと言うのは簡単。
子供の頃の私なら、何も考えずに言っていたと思う。
でも今、私は大人で、夢を追い求めている人だと知った上で好きになった…。
だったら…それを止めるようなことはできない…。
どんなに涙が零れ落ちても、手を放さなきゃいけない…。
例えこれから先、いつ会えるか分からなくてもーーー。

「…ひっ…く…」


涙が引っ込んだら…
中に入って、坂本さんと一緒に笑おう。
楽団に誘ってくれたこと、もう一度お礼を言おう。
それから今度会う時が来たら……

その時は一緒に楽器で話しましょうね…って、

明るく、とびきりの笑顔で、言うんだーーー。