十一月の文化祭で行われた演奏は、大盛況で終わった。
作り上げてきた楽団のハーモニーは、鳥肌が立つような感動を私に与えてくれた。

「真由達の演奏すごく良かった!もう感動しまくり!いい楽団だよねーあんた達のとこ‼︎ 」

夏芽が大きな声で褒め称えてくれる。演奏した側としては、これ以上にないくらい嬉しい。

「私も初めて演奏する場に立ったけど、それホント思った!いい楽団だよねー」

高校生みたいにキャアキャア言ってはしゃぐ。それを聞きつけたように団長と坂本さんがやって来た。

「元気いいなぁ…真由ちゃんの友達?」
「はい!吉川夏芽と言います!」

人懐っこい笑顔と元気の良さで、誰とでもすぐに打ち解けてしまう夏芽。
根明かな柳さんと気が合って、二人で楽しそうに話してる。
その横で私は、気まずい気持ちでいる。
あの工房での夜からこっち、坂本さんとの間に流れるビミョーな空気。
話をしない訳じゃないけど、ちょっと躊躇してしまう。
その口から、また朔のことが出るんじゃないかと、変に身構えて…。

「理、ちょっと来てくれるか?」

側を通りかかった水野先生が彼を連れてく。呼ばれた先で外国の方を紹介され、会話してる。

(何を話してるんだろう…?)

気になるからチラチラ見る。坂本さんの顔が驚いたり、喜んだり。

(何かいい話…?)

ドキドキしながら目で追う。この所、そんな事が多い。
子供の時みたい。朔のことをずっと目で追っかけていた、あの頃と同じ……。


「気になる?」

柳さんの声にビクつく。振り返るとニヤついてた。

「えっ⁉︎ 何の事ですか?」

心の中はドギマギしてるけど、辛うじてポーカーフェイス。
それを見透かしてるかのような柳さんの瞳。
あの夜、私がフルートを聞かせたかどうかを聞きに来た時と同じだ。




「この間どうした?」

例によって遅刻常習者の坂本さんを待っていられなかったみたい。
ウキウキした様子で、楽しそうにやって来た。

「フルート聞かせてやった?」

罪悪感なしに聞いてるんだというのは分かる。でも、答える気にはならなかった。

「…坂本さんに聞いて下さい。私からは答えたくありません…」

むすっとして逃げてしまう。
練習が終わった後、きっと坂本さんから柳さんに話があったんだろう。
次の練習日に会った時、こう言われたから…。

「おっさんが真由ちゃんのフルートは良かったって言ってたよ!俺も聞かせて欲しーな 」
「…ご遠慮します…」

素っ気なく断った。
二度と誰にも聞かせたくない気持ちでいた。
フルートを吹くことで、朔を引き合いに出されるなら、吹かない方がいいと思ったからーーー。