「お前、大胆なことやらかしたんだってな」
「恐れ知らず」

次の練習日、ハルシンは慌てたように私の所に来た。

「誰に聞いたの?」
「ナツ」
(…だよね)

分かっていながらも聞いてみた。
私達の間では隠し事はできない。一人に話せば皆に伝わる。

「もっさんと団長に直接意見するなんて、お前が初だろーよ!」

ハルが意地悪く言う。

「ホントに気が強いな、真由子は」

シンヤが呆れる。何も言い返すことのできない私に二人が追い打ちをかけた。

「あの程度の事ならどのパートでもやってるよ」
「もっさんと団長は、それそれの立場からわざと音を立てただけ!騒音に聞こえたのも、それだけ本気でやってるってこと!」

いちいち有難い説明。耳が痛い。

「もういいって。十分聞かされたから」

あの日、坂本さんからコンコンと…。

眠くなるまで話してくれた。
音をぶつけ合うことで初めて分かる相手の気持ち。
この楽団は皆がそうやって自分の思いを音にしてるんだと言っていた。

「学生じゃないから先生も表立って指導しないし、皆、自分の思いを語って曲を作り上げる。だから小沢さんも遠慮しちゃダメだよ。自分の思いを相手に伝えないと、人の演奏に流されてばかりでは面白くないよ」

七年間のブランクを抱えている私には、曲を作り上げるという意味も、音をぶつけ合うという意味もサッパリ理解できなかった。
でも、今日ここへ来て皆の練習ぶりを聞いて少しだけ分かった。

バラバラだった演奏が少しずつ合っていく。
音色もスピードも曲調も、全てが一つにまとまっていく。

(これがハーモニーを作るってこと…)

学生の頃には知らなかったブラスの奥深さ。中に入って、初めて知る世界。
だからあんなにも感動する演奏が生まれる…。


「先日は、生意気なことを言いました。ホントにすみませんでした…」

練習終了後、まだ音を奏でている二人に謝った。

「お酒が入っていたとは言え、浅はかでした…」

「仕方ないよ。小沢さんは音から離れていた期間も長かったし」
「ここの練習方法は独特だから」

たいして気にしてないように言ってくれる。
大人の集団。ここはそうなんだと教えてもらった気がした。

「…ところでさ」

宇崎さんがニヤつく。

「俺酔っ払ってすぐに寝たからその後のこと知らねーんだけど、二人ってあの後何してたんだ?」
「何って、ずっと楽団について説明して、理解してもらった後も音楽について話し込んで、気がついたら寝てた」

ねっ…とこっちを見る坂本さんに合わせて頷く。それを怪しまれた。