呆れ顔も気にせず、遅刻の常習者もっさんこと坂本理さんは、平然とした感じでドアを閉めた。

「おっさん、俺に伝え忘れはないか⁈ 」

コンマスの声にそっちを見る。そしてようやく私に気づいた。

「あっ!小沢さん‼︎ 」
「こ…こんにちは…」

半年ぶりくらいの対面。少し照れる。

「そうか。今日から練習参加だったか。悪い。忘れてた!」

後ろ頭を掻いてる。

「お前、ハルシンから真由ちゃんのこと頼まれてたんだろ⁉︎ 」

…ったく、どうしようもねぇなと呟く団長さん。
皆からも失笑の声が上がるのに顔色一つ変えてない。どれだけ神経太いんだ、坂本さんって…。

「ごめん!ホントに悪かった!小沢さん、今日からよろしく!」

側に来てさり気なく握手。あんまり慣れた感じだったから躊躇もできなかった。

「おっさん馴れ馴れし過ぎ!小沢さんとどういう関係だよ!」
「どういうって、ただの知り合いだけど…ねぇ⁈ 」
「は、はい!」

急に振られても困る。慌てて首を縦に振った。

「ふーん…なんか怪しーな。…まぁ話は後でじっくり聞くとして、今日先生は?来るのか?」
「来るって言ってたよ。そろそろだろう」

坂本さんの返事があってすぐにドアが開く。
廊下から入って来た人を見て、私はつい大きな声を出した。

「あっ、社長さん!」

ドッ!と笑いが起こる。側にいた団長さんと坂本さんまでが笑いを噛み締めた。

「真由ちゃん、あの人は確かにおっさんとこの社長だけど、ここじゃ指導者だよ。先生!」
「先生…?」

坂本さんが水野さんを先生と呼んでいた意味が初めて分かった。ホントに先生をやってたんだ…。

「し、失礼しました。お久しぶりです」

恥ずかしさもあって、平謝りで頭を下げた。
先生こと水野さんはニコニコしながらこっちへやって来た。

「久しぶりだね。その後フルートは鳴っているかね?」
「はいっ!調子良く。その節はありがとうございました!」

おかげで綺麗な音が出るようになった。とっても感謝している。

「きちんと手入れされた楽器だったからね。鳴るようにするのがこっちの本職だし。当然だよ」

指揮台を明け渡す。
団長の指示でフルートパートの端っこの席に座り、全員が着席したのを見て、先生が全体を見渡した。

「新しい仲間も加わったし、十一月には市の文化祭にも参加する。皆でまたいい演奏をしよう!」

県公認でもあるこの楽団は、それぞれ皆いろんな仕事に就いている。
各自の仕事の都合で練習に来られない人も中にはいて、いつも全員が集まるとは限らない。

「…だからって演奏は手を抜かない。皆一生懸命やってる」

後から聞いたシンヤの言葉。
ブラスを通して繋がっている人と人。素敵な集団なんだな…って、そう思ってたんだけど…