九月の第三土曜日、私はハルとシンヤに連れられて、初めて楽団の練習に参加した。

「もっさん、連れて来ましたよ!」

意気揚々に入って行ったのはいいけど、お目当ての人はおらずハルはガッカリ。

「チッ!今日も遅刻か…」

舌打ちなんかしちゃって、慕っているんじゃなかったの!?

「ねぇ、シンヤ…」

耳打ちなんて好きじゃないけど、確かめたい事がある。

「坂本さんって、遅刻の常習者なの?」

質問に肩をすくめて笑う。この楽団のファーストトランペット奏者は、いつも大抵遅刻して来て一番最後まで残っているんだそうだ。

「練習熱心なんだけど、時間にちょっとルーズでね…」

慕っているけど困っている。でも、何も言えない程の腕前の持ち主。

(羨ましい人だな…)

練習には厳しかった朔とは違う所を発見。やっぱりただ似てるだけだったみたい。

「おっ!ハルシン、その子誰だ?」

背の高いひょろっとした人が来た。髪はウエーブがかかってて、なんだか少しヤンキーっぽい。

「僕等の中学時代の同級生です。団長」

(団長…?この人が…?)

春先のコンサートを思い出す。こんな人だったかな…?

「ドーモ!こんちは。コンマスの宇崎です」
「は、初めまして。小沢真由子と言います。よろしくお願いします」

コンマスの宇崎さんはフルネームを宇崎柳太郎(うざき りゅうたりろう)だと言って自己紹介した。

「団長、真由が今日から練習に参加するって、もっさんに言ってたんっスけど聞いてますか?」

ハルの言葉に宇崎さんが私を見る。

「いや、何も聞いてないけど…」

やっぱり…って顔するハルシン。あっ、ハルシンと言うのはハルとシンヤの略。よく二人でくっついてるから、いつの間にかペアみたいな呼ばれ方になったらしい。

「団長に話しとくって言ってたんで、お願いしたんですけど…」
「あいつがそんな気の利くようなことする訳ないだろ」

楽器バカなんだから…って、それ褒め言葉…よね⁉︎

「でもまぁ、新しい仲間なら皆に紹介しなきゃな。真由ちゃん?…だっけ。こっち来て」

手招きされる。大丈夫⁈と振り向く私に親指立てるハル。シンヤも背中を押した。


団長さんに連れて来られたのは指揮台の置いてある場所。そこで大きな声を出した。

「おーい、皆、着席!ニューフェイスを紹介する!」

騒ついた団員達が集まって来て各自の席に着く。皆が座ったのを確かめて、団長さんから紹介があった。

「ハルシンの同級生で『小沢真由子』ちゃん。パートは…えーと?」
「フルートです…」
「ああ、そう。フルート!よろしく頼むな!何か質問は⁈ 」

団長の投げかけで、いろんな質問が飛び交う。
経験年数や年齢、生年月日、彼氏の有無に至るまで様々。忙しく答えていると、練習場所のドアが勢いよく開いた。

「悪い!遅くなって…!」

走り込んで来た人の声に、皆が後ろを振り向く。