音が止む。頭を下げる。そして少しだけ涙する。
朔との別れが悲しいからじゃない。やっと気持ちの整理がついたから。

「おかえり真由子」
「やっとらしくなったな!」
「良かったよ真由!」

仲間達の言葉が胸に響く。朔同様、皆を待たせてきた…。

「ただいま皆。待たせてゴメンね!」

音の世界に迎え入れてくれた仲間。今日からまたよろしく。


「真由ちゃんありがとう。朔がきっと喜んでるわ」

亡くなるまで私のフルートを耳に残してくれた人のお母さん。力強く手を握ってくれた。

「こちらこそ、本当にありがとうございました…」

お父さんとお母さんに感謝する。そして、もちろん朔にも…。

「朔、聞いてくれてありがとう…」

ぎゅっと握って手放した宝石。これからはここで、家族に見守られていて欲しい。

「真由!それ…いいの⁉︎ 」

夏芽が驚く。

「うん…もう十分、力を貰ったから」

仏壇に光るマウスピース。朔の形見。私が一番大事にしていた物…。
今日からはここが居場所。そうしようと決めていた。

「ホントにいいんだな⁈ 」
「後悔しない⁈ 」

ハルとシンヤの言葉に頷く。

「しない。だって、ここに来たらいつでも会えるもん!」

笑って答えた。涙が少し滲んでも、笑顔は消えなかった。



いつかのように、四人で来た道を戻る。その道すがらハルが言った。

「真由、あの話、もう一度考えてみろよ」
「もっさん、ずっと待ってるみたいだったよ」

シンヤの言葉にハルも同感する。

「やってみたら?真由、私も応援する!」

夏芽が肩を抱く。

「……うん…」

少し考える。でも、答えは早くから出ている。

「…私、楽団入ってみる…」

避けてきた世界。人と音を重ね合わせることを一番恐れてきたけど…。

「一人でやるより、大勢の方が楽しいもんね。ブラスは!」

ずっと一人で練習しながら、いろいろと思い出していた。
朔だけじゃない。仲間ともいっぱい、楽しい時間を送ってきた…。

「そうこなくっちゃ!」
「もっさん喜ぶぞ!」
「早速教えよう!」

兄貴のように慕われている人。どこか朔に似ている人…。
今度会ったら、一体どんな顔をして会おうか…。


「あっ!」

いきなり思い出した。

「何⁉︎ どうかした⁉︎ 」

夏芽がビックリして離れる。ポカンとする三人。その顔に向かって呟いた。

「私…フルートが吹けるようになったら約束してた事があった!」

きっかけを与えてくれた人からの願い。
曲が吹けるようになったら、家族に聞かせて欲しいと頼まれていた…。

「恩返ししなくちゃ!それと罪滅ぼしも!」

意味不明な言葉に首を傾げる仲間達。そんな彼らの前で電話をかけた。