「どうでした?小沢さん、僕の語り」

イキイキとした表情で聞いてくる。
泣いてばかりいて、真っ赤な目だった私は、顔を逸らして応えた…。

「す…素晴らしかったです…感動しました…」

声が鼻に引っかかる。
その様子を見て首を傾げる坂本さんに、ハルが余計な一言を言う。

「こいつ、彼氏が死んで七年近く、ずっとブラスを聞いてこなかったんっスよ。だから感動して泣き過ぎたらしくて、目ー真っ赤で…」
「ハル…!」

夏芽が慌てて制す。でも、もう遅い。

「そうか…七年も…」

呟く声が重く感じる。
絶対に馬鹿にされると、心の何処かで恥じていた。

「…音から七年も離れて…生きた心地がしなかったでしょう?」

楽器と同じ声がして顔を上げた。

「音は生きる源ですから…ずっと生きた心地しなかったでしょう?」

ニコッと笑う。そして、ゆっくりと口が開いた。

「これからは音を取り戻して。もっと沢山聞いて下さい。その方が、亡くなった彼氏も喜びますよ」

優しい言い方。でも、やっぱり力強い。

「はい…」

それしか応えられなかった。でも、坂本さんは嬉しそうに笑った。
背中を向け去って行く。その姿に息が詰まった…。


「真由子…僕らももっさんと同じ意見だよ」

シンヤの声に振り向いた。

「音は生きる源…確かにそうだな…」

ハルが繰り返した。

「真由、もう音を怖がらないで。その中に朔はきっといるよ」

夏芽の言葉に胸が熱くなる。私は今日、それを初めて知った…。

「うん…きっとそうだね…」

この世から朔はいなくなった訳じゃない。
音を通して、ずっとこの世に生きていた…。

そして、今でも待ってる…。
音のある世界に、
ブラスの世界に、
私が…戻って来るのを……。

「…私もう…音から逃げないよ……」

殻を破り、ようやく外へ出た。
生まれ変わったような新鮮さが身体の中に満ち溢れてる。
もう音は怖がらなくてもいい。
音の中にいる限り、朔を感じていられる。

新たな時間の始まり…
ようやく一歩踏み出せる……。

(ありがとう朔…私、生きていくから…)

ざわめく会場の中で、沢山の音と光の中に包まれながら、私は自分が生まれ変わった瞬間を抱きしめていたーーー。