土を掘り返し始めて、三十分くらいが経ってた。

「そろそろだと思うんだけどな…」

1mくらいの深さに空いた穴を見つめながら、ハルが一息ついた。
四人で替わる替わる掘り続けて、皆少し疲れてた。
でも、誰一人として「止めよう」と言う者はいない。
皆、それぞれに昔の自分と対面したかった。


カチン!
ショベルの先に何かが当たった。



(朔……!)


ーーーーーーーー

あの初秋の日、朝8時30分の面会時間を待たずして、私は病室へ向かった。

ドアをノックして中に入ると、白衣を着たナースと目が合って、あちゃ…と顔を引きつらせた。
でもよく見てみると、いたのはナースだけじゃなく、背の高い朔の主治医もいて。
そしてその先生が…


「8時15分。ご臨終です…」

重い声で呟いた。…ううん、宣告したんだ。


朔の… 死を…。


ぺたん…。

腰が抜けるように、その場に座り込んだ。
ナース達が側に来て、二人がかりで立たせてくれる。
そして、やっとの思いで朔の所まで歩いて行けた。


朔は…穏やかな顔で眠ってた。
苦しみも何も感じさせない。
静かで…幸せそうな顔をしてた。

目の前で、朔の身体から外されていく点滴。
ずっと、外して欲しいって言ってた。


「やっと、自由になれた…」

声が…聞こえた気がした。

辺りを見回す。

何処にもいない。
朔のお父さんとお母さん、そして親戚の叔父さん、叔母さん。
その中に紛れ込んでもいない。

(どこ…?)

フラつきながらキョロキョロする。

声の主は見当たらない…。
何処へ行ったのかも、何処にいるのかも…分からない。


「骨肉腫…だったんです…。気づいた時にはもう…手遅れで…肺に転移していて……」

親戚の人に話すお父さんの声。

(何それ…?…コツニクシュ?…朔は…病気だったの…?)


「骨折じゃなかったの…?」

眠ってる朔に話しかけた。

「膝の皿、割れたんじゃなかったの? 骨肉腫って…何の病気?…そんなに悪くなるまで、なんで放ってたの…!」


静かな顔して眠ってる。
自分はもう楽になった…て顔してる。