「分かったわ〜。あ、大樹くんも行ってらっしゃい」 グイグイと大樹くんの背中をあたしの方へ押す。 「え?」 「後からあまりイチャつけないから……少ない時間でも♪」 お、お母さん……絶対楽しんでる。 「行こう、樹里」 「……うん」 少し呆れながらも、あたしは大樹くんと部屋に向かった。 でも。 「嫌な思い出なんか……忘れなさい」 お母さんがほんの少しだけ悲しそうに、その言葉を言ったことを、あたしが知るはずもないのだ。