となり。

『すこしだけ気があると感じさせよう』

今日はそれが目標。

『私、先輩が楽器吹いてるところ好きですよ、手が綺麗だし。』

また繰り返すシミュレーションと口の運動。

決意したものの上手く口が開かない。

いえないまま時間は過ぎていく。

するととなりの佐々木先輩は行き詰まったようにため息をついた。

「はぁ。 」

「どうかしたんですか?」

「いや、うまく吹けないから嫌だなーと思って」

「そ、うですかね?上手だと思いますよ?」

「俺うまく吹けない自分が嫌になるんだよねー多分みんなそうだろうけどね」

すこし苦笑いを浮かべながら話す。

「わ、私も!自分が嫌になります…ユーフォちゃんの力をちゃんと引き出せてるのかなぁって、」

「竹中さんは大丈夫だよ。いつもとなりで聞いてるけどちゃんとユーフォらしい音が出てるよ」

初めてだった。
それ以上に嬉しかったのは『いつもとなりで』という言葉。

すこしだけ期待した自分がいた。

『いつもとなりで…?聞いてくれてた…?私の音を…?』

これまで以上に嬉しかったその言葉。

「い。いつもって…わ、わたしもいつもとなりで聞いてますよ!先輩の音!綺麗だなってすごく思いますよ!!」

これまで溜まっていた、いいたかったことがすべて言えるぐらいに口が動いた。