明らかに浮いている。おそらくここに来るのは初めてだろう。

「ねぇってば佐々木くーん?聞いてるう?」

佐々木先輩の腕に自分の腕を絡ませながらすこし上目遣いで言う。

「あーいや、俺部活あるから、」

佐々木先輩も困ったように反論する。

「いいじゃなぁいすこしだけだから、ねぇ?」

「部活サボるわけには…」

「もおー融通きかないなあじゃあまた今度さそおー」

「いや、来られても困るから」

「そんなの関係ないからあ♪」

語尾上がりの口調がどうも耳に残る。

「じゃあねー佐々木くーんまたねぇ」

《…………………》

音楽室に沈黙が流れる。

「はぁ…」

佐々木先輩のため息と共にまたいつもどおりの部活が始まる。

「ちょっと。今の何?」

「あ、真姫」

「今の香川 友美でしょ?学校一のギャル様がなんのようなのよ」

「さぁ?佐々木先輩に話しかけていたけど…佐々木先輩のこと好きなんじゃない?」

「…聞いてきてよ佐々木先輩に!!」

「はぁ?!」

「よろしくぅ♪」

「ちょっと!!」

背中を押され無理やり佐々木先輩の前に立たされる。

「ん?どした?」

いつもどおりの声がいつもより大きく聞こえた。

「あ、いや、さっきの人と何かあったのかなと思って…」

「あー…まぁ知り合い?ちょっとね」

「そーでしたか、大丈夫ですか?」

「大丈夫。気にしないで」

「はい…」

気にならない訳がなかった。

好きな人にあんなにベタベタと近寄られては腹が立つ。
自分ができないから僻みのように聞こえるかもだけど実際そうなんだから仕方がない。

その日の部活はみんなどんよりとした空気で行われた。