颯斗くん!

誰かが呼んだ声。
その名前が廊下から聞こえるだけでクラスの雰囲気がかわる。
女子はみとれて、あるいは頬を染めながら。
男子は少し嬉しそうな顔をしながら廊下に行く。


がっつりと人の心を掴んでいくのだ、あいつは。


「人気者ねえ、矢城くん。陽菜はあの顔好き?」
「まあまあ。美波はああいう顔がタイプ?」
クスクスと笑いながらわたしは前の席の住人を見た。
「んー…顔は、ね。」
唇を尖らせながら美波は呟いた。
「えっ、横谷あんな顔が好きなの!?」
そしてそれを聞いていたらしいわたしの隣の席から驚いたような声がした。
「うるさい、西宮。矢城くんの顔が嫌いな人なんてあまりいないでしょう。」
「俺は嫌い!」
「えっ」
西宮くんは頬を膨らませながら言った。

「イケメンだから!」

馬鹿だ、と美波がため息をついた。
彼はあなたのことが好きなんですよ、美波。
心のうちでそっと呟く。
恋している西宮くんは面白い。