繁華街を抜けると、弥生は住宅地に向かう。
航大は少し考えて真面目に言った。
「弥生ちゃんは、俺と同じで限界まで我慢するんだね。
今日もさ、すぐにわかった。無理して笑って、イライラした」
「…そっか、でも優しいね、助けてくれた。ありがとう」
「いいよ、だって俺は弥生ちゃんの恋を応援したいしね」
航大はウィンクをしてみせた。弥生は笑った。
「やっぱそっちの顔のが可愛いじゃん」
「え?」
「無理して笑うよりも、自然に笑うほうがいいよ」
「ありがとう」
だんだん敷地の広い家ばかりになっていく。相模家は一番広い敷地だ。航大は少し不安になってきた。
「あのさ、ここって高級住宅街だよね?」
「そうなの?これくらいの家この辺りは、いっぱいあるよ」
「弥生ちゃんさ…」
航大が言う前に、弥生は家の前に立った。航大は唖然とする。敷地の広さだとか、家の大きさだとか、自分が思っていた高級とは格が違う。
「相模って、もしかして財閥の相模?」
「よくわかったね」
確かに弥生は、大金持ちという感じはしない。しかし思い返せば、幸奈も美華子もそれとなく上品だった。綺麗にコーヒー飲み、綺麗にケーキを食べていた。弥生も身のこなしが綺麗だ。
「えー?!」
航大は悲鳴のような声を出した。
「失礼しちゃうな!」
弥生はご立腹というような目で見ていた。
「いや、なんかすいませんでした!馴々しくして」
航大は頭を下げる。
「え?馴々しくされてないよ!友達になったんでしょう?」
「いや、だけど俺だって相模財閥って知ってるし」
「関係ない!私はわたし、相模弥生!1人の人だよ」
もっともな意見だ。弥生は航大を除きこんだ。
「敬語、さん付け、特別扱いは全部禁止!ね、約束だよ?」
強引にいうのに、弥生の強引は強引ではないように感じる。
「おっけい、番号教えてよ」
「いいよ」
弥生は携帯を出した。航大はすぐに赤外線を使って交換した。
「また、俺の話も聞いてもらうし、よろしく!」
航大は手を振って、来た道を戻っていった。弥生は少し心が救われたような気がした。航大の姿を少し見てから、門から家に入った。

