わたしの想いがとどくように

「お疲れ様でした」

「おつかれー」

店長が優しくそう言った。

「店長は、もう41歳なんだけれど、ずっと独身なの」

「へー、かっこいいのにな」
弥生はねーっていうと、すぐに変わった。

「左手に指輪をつけてるから、なにかあったのだと思う」

「よく見てんな」

「うん、聞きたかったけれど、聞けなかった」

「ふーん…でさ、弥生ちゃんさ、あの従兄弟くん好きでしょ?」

航大は真面目な顔をしていた。
隠して、誰も気がつかなかったのに、航大は気付いた。すぐに気がついた。航大は悲しく笑った。この人は自分に似ている。そう直感した。
航大は、繁華街の遠くを見つめていた。
1つ1つの街頭が綺麗に光っていて、夜なのに明るい。
弥生はうつむいていた。航大は、きっと何かわかってくれたみたいだ。
自分がひた隠しにしようとしているものを、くみ取ってくれた。

「いたいたしいかったよ」

「…航大くん、なんでわかったの」

「弥生ちゃんが俺に似てるから」

航大は真面目に言った。弥生は答えられなかった。

「弥生ちゃん、従兄弟くんと同じネックレスしてたね」

「あれは、私のわがままなの。買いあって、でも幸奈がつけてるところなんて見たことなかった」

「隠してたんだよ。従兄弟くん、弥生ちゃんが特別みたいだし」

昔からそう、みんなに言われてきた。
幸奈に大事にされて、ずっと仲良しでうらやましいと。
幸奈が大事に思う理由は、大事な"家族"だから。
それにしても、航大は何のきなくすぐにこんな話をしている多分、彼が自分に近いからなのかもしれない。

「…幸奈は、わたしが家族だから大事なのよ」

「従兄弟だろ?一応、家族じゃなくね?」

「わたしたち、同じ家に住んでるの、"仕来たり"で、親兄弟は一緒に住んでいて
だから昔から兄みたいだった。わたしのほうが早く生まれたんだけどね」

弥生は苦笑いをした。航大は、良く理解していないようだ。無理もない。弥生は続けた。

「それにね、知ってたんだ。中学2年生のときから、幸奈はずっと美華子を好きだったの。私には、幸奈の心に入れる隙間なんてないんだよ」

航大は、困った顔をしていた。弥生も一緒に困った顔をしていた。

「わたしは18で結婚するの。そろそろお見合いすると思う」

「そんな昔みたいな話!お嬢様じゃないんだから」

航大は笑っていた。信じていないようだ。