弥生は2人の前に桜を持っていく。その様子を航大はみていた。
「失礼します」
弥生はそっと桜を置いた。
「さっきのやつ?」
幸奈がそう聞く。
「そう!店長は凄いんだよ!なんでも出来て」
弥生は自分のように胸をはってこたえた。
そんな弥生をみて幸奈はほっとした
「良かったな、弥生」
幸奈が微笑んでくれた。
「弥生はいいね、良い出会いが出来て、幸奈も安心だね」
美華子がそう言う。今までくん付けだったのに、美華子は呼び捨てしている。
まだまだ大丈夫、目の前に見ても大丈夫だと思っていた。
でも、辛い。心は張り裂けそう。
自分以外に優しい顔を見せて、自分じゃ絶対に見られない顔をさせられるのを見る。
自分はなにも出来ない。
動かない自分のせい。
弥生は動けなくなる気がすると、航大が入ってきた。
「初めまして、森下航大です!5月26日生まれ、牡牛座、B型、よろしく」
航大は弥生の肩に腕をまわした。
幸奈は自分が少しムカッとしているのに気がついた。
「きみたちは?」
「相模幸奈、11月4日生まれ」
幸奈は、航大の目をみずに答えた。少し不機嫌なようだ。
「弥生ちゃんの従兄弟!」
「…そうだけど」
弥生は言葉を発せない。真っ赤になっている。
幸奈はそれを見て、少し怪訝な顔をしていた。
航大はそれに気付かないふりをした。
「上宮美華子です。1月1日生まれ、山羊座、A型です」
「可愛いね」
航大は率直にそう思った。
「ありがとう」
美華子が笑うと、航大も笑った。
「じゃ、バイトあるから、弥生ちゃん行くよ」
弥生は航大にそのまま肩を抱かれたまま、戻っていった。
まだ客はきていないが、これからだんだんくる。弥生はいった。
「バカ!無理すんなよ!」
小さいが怒鳴りつけるように言われた。弥生ははっとしていった。
「私の頬を両側から叩いて!」
「えっ?」
航大はためらう。弥生は女の子だ。それに、白い肌が赤くなると目立つ。
「早く!おもいっきり!」
せかされて、両頬を叩くと弥生はぎゅっと目を瞑った。
「っっっ!!!ありがとう!すっきり」
弥生は笑った。
「お前さ」
「後でね」
弥生はそういった。一瞬凄く切ない顔を航大はみた。
2人が出て行ったあとも、お店は賑わう。
航大と弥生は6時までいた。お店は11時にしめられる。
4時くらいには、専門学校生の水谷咲が来た。
咲は、美容の専門学校で、弥生の髪を結ってくれる。
清楚なお姉さんだ。店長が昔スタイリストだったので、いろいろ教えて貰っているようだ。
弥生たちがあがると、着替える。弥生はバイトの制服を脱いだ。
ネックレスを大事そうに握る。涙は流れなかった。大丈夫だよ
「駄目だよ、私。もう私は離れるんだから」
弥生は鏡の自分にそう言った。着替え終わると、弥生は更衣室から出る。
航大が待っていてくれたようだ。制服はブレザーだった。
「待っててくれたの?」
「女の子が1人は危険だろ?」
「大丈夫だよ」
「弥生ちゃん、可愛いじゃん。危険だって」
弥生はにっこり笑ってありがとうといった。
2人で裏口から出て行く。

