二人で歩いていくうちに、弥生のバイト先についた。

「「いらっしゃいませー」」

弥生と航大の声がした。弥生が2人に気付き、近寄ってきた。

「お二人様ですね」

「はい」

弥生はすぐに開いている席に案内した。

「ごゆっくりどうぞ」

弥生は一礼をすると、他の客に対応していた。2人は、そんな弥生を珍しそうに見ていた。

「弥生、なんか変わった?」

「仕事は切り換えるんだってさ」

航大だ。注文を聞きに来た。美華子も暁も同じケーキを頼んだ。航大はそのまま店長のところに行く。弥生は立っていた。航大が話しかける。弥生は明るく話していた。

「弥生、美華子ちゃんは"幸奈"くんと別れたの?」

「ううん、昔から暁は美華子が好きだったのだけど、言えなかったから、わたしが言っちゃえば?って言ったの」

「ほー?」

航大は興味津津だった。しかし、客の入りもあるので、接客もする。弥生は対応をしながらも心配そうに見ていた。店長は、ケーキを作っていた。

「航大、ケーキ」

呼ばれた航大は、はいっと返事をして2つお皿をお盆において持、2人の前に行った。弥生はほかの客の注文をうけた。航大はお皿を置いた。

「ケーキ…2つ」

「ありがとう」

暁が笑顔で航大を見た。眩しい、芸能人みたいだ。弥生はこんな人達と友達なのか、凄いなと思った。美華子は外を見ている。

「あっ、あの大きい看板の服、前に暁がデザインしたやつ」

「えっ?」

航大も覗きこむ。有名なファッション会社の看板だ。

「あー、そうだな。でも、あんまり気に入ってない。もっとよく出来た気がするのに、時間なかったし」

暁は真面目な顔をしていた。仕事になると切り替わる。暁の目は、真っ直ぐだった。
美華子はそんな表情の暁を見るのが好きだった。航大は、その場を立ち去った。

「あのさ、美華子は幸奈のどこが好き?」

急に言われて、美華子は真っ赤になった。ふいをつく質問だ。美華子は動揺する。

「…えっ?えと…背が高くて、守ってくれそうで、でも話下手で可愛いところかな…」

「へー」

「暁は、彼女いるでしょ?」

「あぁ…今はお前の知らない子だよ」

「えっ?!」

「なんか、あっちから別れましょうって、俺が仕事になるとそっちになるからさ」

「…え…全然暁のこと理解してない!!」

美華子にそう言われると、暁は睨むように美華子を見た。美華子は知らない。その言葉が自分をどれだけ揺らすのか。嬉しかったり、悲しかったりするのか…美華子は暁の目を見て赤くなった。暁?暁が見られない。男の子に見える。知らない男の子。

「…じゃあ、お前は理解してるの?俺のこと」

冷たい声だが怯まなかった。

「…してるつもりだよ?」

「本当に?じゃあ、俺がお前のこと好きだって知ってた?」

暁は睨んだような目のまま美華子を見ていた。美華子は怖かった。いつもいつも、暁は自分にこんな悲しそうな顔はしなかった。ごめんなさい。暁にこんな顔をさせてしまった。美華子は泣きそうになったが、ぐっと我慢した。泣く権利なんかない。
暁は察した。すぐに優しい顔に戻った。

「…お前、ずっと幸奈が好きだったもんな、いーよ。俺、もうお前とは関わんないから、安心しろ」

暁は、ケーキを全て食べ終わっていたので、立ち上がった。航大が会計する。

「…あいつん家の車呼んどくから、今はほっといてやって」

「はい、わかりました」

航大は、少し唖然としていた。
弥生はそれを見て、暁もいるので近付いて来た。

「約束、忘れるなよな」

暁は明るくそう言うと、弥生は笑った。

「勿論です」

弥生は片手で丸を作った。

「美華子、頼むぞ」

暁はそう言うとすぐに出ていった。弥生は暁を凄くかっこよく感じた。暁が外に出ると、空を見た。少し目が潤んだが、すぐに治まった。少しすっきりした。大丈夫だ。美華子の家に電話をして、暁は帰った。
弥生は暁が出て行くと美華子が座っている向かいの席に座った。

「どうしよ…弥生…私が傷つけた」

「美華子が負い目を感じることじゃないよ。暁は大丈夫だから」

弥生はそう言うと、優しく笑った。暁は本当に大丈夫だ。
今日は駄目かもしれないけど、明日には明るくなっているはずだ。
そのうち、美華子の家の車がきた。



次の日、屋上に暁は幸奈と2人でいた。

「俺、美華子に好きって言ったよ」

「…そうか」

幸奈はそう言うと、寝そべった。暁は思っていた通りの反応で少しつまらなかった。
溜め息をつくと、一緒に寝そべっていた。

「俺はすっきりしたから、相談しろよ?遠慮とか絶対にするなよ」

「…わかってるよ」

幸奈は、嬉しかった。暁は自分よりもずっと優しく、強かった。
だから、安心出来た。幸奈は少し沈黙してから、いった。

「ありがとな」

「うん…俺はもう美華子とは関わらないからさ」

「…そうか」

「うん、お前がしっかり見てるから、大丈夫だし」

暁は明るく笑った。幸奈は少し辛かった。
恋は人を傷つけるその事実が、自分にのしかかる。暁はそれに立ち向かったなら、自分もしっかりしなければいけない。
幸奈は、目を瞑った。重圧がかかったような気がした。