わたしの想いがとどくように

「弥生ちゃん、遅いですね」

沙也が心配そうに言う。家族全員が集まっていた。
食堂に、家に住んでいる家族全員だ。

「弥生、今日はすぐに帰りなさいってメールしたのに…」

弥生の母が心配そうに言う。弥生の父は大丈夫だろうと笑ったいた。

「弥生だってもう17歳だ。大人だろ」

「弥生ちゃん、きっとバイト先で祝って貰っているんですよ」

沙也がそう言うと、納得していたのは弥生の父だけだった。
みんな弥生に早く会いたいのだ。
幸奈はずっと黙っていた。弥生がいないと、大抵こうだ。

「幸奈、さっき電話したでしょ?」

幸乃がそう言うと、頷いた。

「もう帰るって、もう30分かかってるけど」

幸奈はそう言う、もう8時近い。

「俺、探してくる」

幸奈は立ち上がって、外に出ようとした。沙也がついて来る。

「幸奈くんは座っていて、私が探すから」

「いいよ」

幸奈は外に出て、門まで歩いた。親ばかりいて、凄く気を使った。
いつも、まともに会わないが、こうやって誕生日は家族で過ごす。
幸奈は深呼吸をした。少し気が楽になった。門まで来ると、弥生が航大と楽しそうに話していた。

「おい!弥生、なにやってるんだ」

「あ、幸奈」

弥生は髪を短くしていた。驚いた。それに、前にもまして明るくすっきりした顔をしていた。
でも、綺麗な髪の毛がもったいない。薄く茶色の髪の毛は、サラサラでとても綺麗だったのに…。

「お前、髪…」

「ショートにしたの!可愛いでしょ?」

「どっちかっつーと、男らしくね?」

航大は冗談でそう言った。幸奈は航大をみた。
軽そうに見えるけど、優しいし、しっかりしていると思った。

「…ありがとな、送って来たんだろ?」

「別にいいよ。やっと話してくれたね、"こうだい"くん」

「お前、俺と同じ名前だっけ」

「そう、仲良くしてよ」

弥生は幸奈がこういう時にどうしたらいいのか分からないのを知っていた。

「握手!」

弥生は幸奈の手を航大の手に合わせた。幸奈のほうが大きい手だった。身長が大きいからだ。

「じゃ、俺帰るわ!またな!2人とも」

弥生は大きく手を振った。幸奈は見ていた。航大の姿がなくなると、2人は家に向かう。

「お前の髪、長くて綺麗だったけど、ショートも似合うな」

「そう、これ評判いいんだよ」

弥生は笑った。安心する笑顔だった。すっきりした弥生は、綺麗に見えた。
弥生は強いと思った。
そう、今日でもっと強くなった。そんな気がした。
なにがあったのかは分からなかったが、良かった。家に入ると、皆が髪型に反応した。

「綺麗な髪の毛だったのに…でも、似合うね」

幸乃はそう言った。すぐに席について、誕生日を祝ってもらう。
1人1人からプレゼントを渡される。
弥生は笑っていた。料理を食べてから、ケーキを食べる。

「美味しい!」

「本当?わたしがパティシエさんと作ったんです」

沙也が嬉しそうに笑った。

「今日、店長も作ってくれて、同じくらい美味しいかったんです」

弥生がそう言う。幸奈は、少し考えていた。祖母が近付いてくる。

「幸奈、お話ししましょうよ」

「はい」

祖母は食堂から出て行く。幸奈はついて行くと、広い庭が見られる祖父母の部屋に来た。

「幸奈は、美華子ちゃんと付き合ってるのよね」

「はい」

「あの子は女の子らしいし、優しいし、お淑やかよね」

「…そうですね、それに気配りが上手い、守りたくなる」

幸奈は優しくそう言う。祖母は、安心したように言った。

「本当に好きなのね、良かった。
幸奈はいつも、家の重圧を抱えてるから、美華子ちゃんがそれを取り除く存在なら良かった」

「…はい、今は凄く幸せです」

「なら、弥生が幸せになる手伝いをしてあげて」

「…?弥生は、十分幸せそうにしてるじゃないですか」

祖母は、苦笑いを浮かべていた。幸奈にとって、弥生は大事な家族だ。
いつも笑って自分に前を向かせてくれる。悲しそうな顔は決してしなかった。

「弥生は笑って無理をするのよ。ちゃんと弥生が笑うことはあまりないわ。
でも、今日は少し違っていたわね、心から楽しそうにしてたわ。
ちょっと、幸奈もあの子を支えてあげて、あの子がずっと幸せに笑えるように」

「…はい」

幸奈はただ返事をした。
祖母が言うことはいつも真実だ、なら自分も弥生のために何かしよう。
そう思った。それが、弥生にとって、どれだけ悲しくても…