わたしの想いがとどくように

放課後に、弥生は暁と一緒に帰ることにした。

「暁、帰ろ!」

「途中までな」

「分かってるよー」

暁はいつも、学校が終わるとすぐに仕事をしにいくのだ。
弥生とは繁華街の先で別れる。そこで車が待っているのだ。
暁は2、3歩弥生の後を優雅に歩いている。

「最近、モデルの榊麗が付き合い出したって、今日ニュースでやってた」

「それ、俺だよ」

「えっ?!」

モデルの年齢は22歳、ありえなくはないかと弥生は思った。

「忘れるには新しい恋っていうじゃん」

暁はそう言う。

「そか…」

暁は新しい恋をしようとしてる。弥生は尊敬した。暁は強いと思った。

「俺さ、お前が凄いと思うよ」

「なんで?!」

弥生は自分の思っていたことを読まれた気がしてびっくりした。
暁は弥生が振り向いて驚いた顔をしていたので、くすっと笑った。

「お前は、自分の想いから逃げてないだろ?」

「……逃げてないっていうか」

弥生は真面目な顔をした。暁は弥生が真面目になるのを察した。
ふざけてない。真剣な弥生は、"綺麗"だ。

「私はまだ1人しか好きになったことがないだけだよ」

「お前は、"仕来たり"に縛られてるけど、それで逃げないからだろ」

暁はそう言うと、弥生は少しだけ考えていた。暁は、弥生のギャップは弥生の個性だて思っていた。弥生は口を開いた。

「私、この頃辛くなるの。どうしていいか分からなくなるの。
幸奈が優しくする度に悲しくなる。今までは平気だったのに…」

「当たり前だ。だって、お前は幸奈が美華子を好きとは気付いていただろうけど、
実際に受け止めてなかっただろ?だから、やっぱり受け止め切れないんだよ」

暁は冷静にそう言った。暁は冷静に返すから、いつも助けられる。

「暁は、受け止められないの?だって、私は暁は大人だと思うよ」

「俺、そんなんじゃないよ。怖がりだし、幸奈には何やっても及ばないし」

暁は少し落ち込んだ顔をしていた。今まで、幸奈の次が多かった。
きっと美華子も暁が幸奈のつぎの好きなんだ。

「なんで幸奈と比べるの?暁はデザインがあるじゃない。女の子のために可愛いアクセサリーとか、服とか作れるもの」

弥生はそう言った。
人のいいところを弥生はすぐに気付くし、比べたりはしない。
いつもこうだ。1人を1人として見る。もう車が見えて来た。

「俺、お前に救われてるな」

「何故?」

弥生はきょとんとしていた。暁はくすっと笑った。
弥生は信号が変わるのを見て走り出そうとした。

「暁、洋服ありがとうね」

「いいよ、気に入って貰えたら嬉しい!」

「絶対に気に入るよ!」

弥生はそう言うと、走って信号を渡り、暁はすぐに車に乗り込んだ。