お昼になった。幸奈は弥生を呼んだ。
「弥生、屋上行くぞ」
「えっ、でも美華子は」
「行くぞ」
弥生は、そう言われて無理矢理腕を引っ張られていた。屋上は誰もいない。
嬉しいと思ってしまう自分に美華子に対する罪悪感が浮かんできた。
「茂木栞とはあまり仲良くするな」
「何故?」
「…あいつは、お前を利用してるだけだからだ」
幸奈の目は真剣だった。弥生は目が合い、すぐに逸らした。
「利用?」
弥生はお弁当を開いた。
そして、箸をもってご飯を一口食べた。美味しいとにっこり言った。
「真面目に話してるんだけど」
幸奈は低い声でいうと、弥生は食べることを止めた。そして俯いたままいった。
「…栞に利用されていても、私は構わないわ」
弥生はそう言った。真面目な顔をしていた。幸奈は、すぐに言い換えした。
「俺は嫌だ。弥生が利用されてるなんて、絶対に嫌だからな!」
幸奈はそれだけ言うと、屋上から出ていった。
「短気だなぁ」
そう言った。幸奈は、いつも自分のことを考えてくれる。短気なのはいつものことで、でもそのまま続いたりはしない。すぐに戻っている。嬉しいけれど、いつも悲しかった。
女の子としてじゃない。弥生はパクパクと弁当を食べる。味がほとんどわからなかった。
今までだって、皆の目当ては自分じゃなかった。
「近寄りたいけど近寄りがたい存在の3人と仲良くなることが出来るから」
前に聞いてしまった言葉だ。
だけど、自分は友達を大事にしようと思っていた。
幸奈は次の日からはもう怒っていなかったが、栞のことは気に入らないらしい。
仲良くなり、3週間して、栞が本性を出した。
幸奈が朝1人でいると、栞が来た。
「幸奈くん、おはよう」
幸奈はそう言われて、ああと返した。
「弥生ちゃんは?」
「いない」
栞は、幸奈の前の席に座った。幸奈は嫌そうな顔をした。
「幸奈くんは、美華子ちゃんと付き合ってるんだよね?」
「…あぁ」
「暁くんと弥生ちゃんは付き合ってるの?」
幸奈は耐えられなかった。弥生を利用することは許せない。
たとえ、弥生が構わなくても、弥生を利用して
自分たちと仲良くなりたいと思うようなやつはすぐにわかった。
だから、幸奈はそういう人とは全く話さない。
「……あのさ、弥生と仲良くするな、お前、暁に近付きたいだけだろ」
「えっ?」
「弥生は優しいから、許すかもしれないが、俺は許さん」
幸奈の言葉を聞いて、栞は嫌な笑いを浮かべた。
これが本性か。弥生が来る前に終わらせたい。
「だって、あの子はお人好しだから」
「だから利用するのか?人の気持ち考えろよ」
幸奈は低い声でそう言った。
委員会の仕事が手につかない。クラスメイトの百合が来た。
雰囲気で察したようだ。幸奈が怒ることはめったにない。またクラスメイトが来る。
「幸奈、どうした?」
「さぁ?わかんないけど」
「あれ、ヤバくない?」
栞は構わずに言った。
「皆言ってるわ、弥生ちゃんに近付けば、3人と話せるって、あなたたちもそうでしょ?」
2人の方を見て、栞はそう言った。
「はっ?!なんで弥生を利用しなくちゃいけないんだよ?」
「弥生は弥生よ。3人って、幸奈くんとか?関係ないじゃない」
「そうそう、弥生は面白いし」
「なによ!幸奈くんの前だから、そう言うんでしょ?!」
2人はきょとんとしてしまった。だんだん人数が増える。
「おっはよー!」
弥生だ。皆振り返った。
「なになに?わたしいつもと違う?」
弥生は身の回りをみた。
「弥生ちゃんは知ってる?皆弥生ちゃんを利用してるんだよ。
弥生ちゃんが3人と仲良いから、3人と友達になりたいから、弥生ちゃんと友達になるの」
弥生はきょとんとしていた。皆がイラついた顔をしていた。
栞は少し辛そうな顔をしている。弥生はヤバいと思った。これだと、栞は嫌われる。
「知ってるよ!」
弥生は笑ってみせた。
「弥生酷い!皆がそうだと思ってるの?!」
「それは違うよ、だって、皆が皆ってわけじゃないでしょう。
今、怒ってくれてる子は、思ってないでしょう?」
弥生はそう言うと、栞に笑いかけた。
「栞だって、辛そうな顔してるもん。たとえそうでも、わたしはいいよ。
それは人それぞれだし、栞はそんな子じゃないよ。
だって、いま言っちゃいけないこと言っちゃったって顔してるもん。」
弥生はそう言うが、まわりは許せないという顔をしていた。
「弥生を利用するなんて、許せない…けど、弥生がいうなら」
「…でも、わたしは、暁くんが好きで、近付きたくて」
「いいじゃん!」
弥生は笑っていた。幸奈はあきれて立ち上がった。もう、栞には悪意はない。幸奈は栞に顔を近付けた。
「…悪かった。けど、弥生には謝れ」
幸奈は、優しくそう言った。栞は、涙を浮かべていた。弥生を見て、言った。
「ごめんね、弥生ちゃん」
「いいって!ね、皆ももういいでしょう?」
「弥生甘すぎ!まぁ、でも平和主義な弥生らしくていいけどさ」
百合がそう言った。弥生は、少し安心した。みんなが自分を好きでいてくれることが嬉しかった。
「弥生は凄いな」
幸奈がいった。弥生はにっこり笑っていた。弥生はいつも笑う。どんなときでも。
しかし、幸奈は昔から泣かない弥生は強いと思っていたが、無理しているとうっすら感じるようになった。
だから、自分が泣かせてあげたいと思うときがある。先生がきて、全員が席についた。

