わたしの想いがとどくように


朝、沙也が弥生を起こしにきた。

「弥生ちゃん、起きてください!」

弥生は、その高い声で目を覚ました。

「もう6時半ですよ」

「まだー」

弥生は朝に弱い。
しかし、沙也も引かない。慣れているのだ。

「駄目です!弥生ちゃんが起きてください!って言ったのだから」

弥生はしぶしぶ起き上がり、用意されていた制服に着替える。
カバンを背負ってた食堂に行くと、誰もいなかった。

「おはようございます」

弥生はあくびをしながら座った。
食事がすぐに準備され、弥生は食べ始めた。
弥生は本当は幸奈と学校にいっていた。
だが、美華子とのことを知って以上は、自分なりに弁えなければ。
だから、いつもよりも早く起こしてもらった。

「沙也さんは、結婚しないの?」

弥生は唐突にそう言った。沙也は、びっくりしていた。

「え?!しないです!!」

「何故?」

「私には記憶がないんです」

「え?そうなんですか?!」

弥生の驚きに沙也は笑った。
今まで16年間1回も聞いたことがなかった。
沙也はずっといる。なぜか年齢だけは知っているらしい。
沙也という名前で、今は38歳ということだけは記憶にあるのだ。

「私、なにも記憶がなくて、困り果ててきたときに、
幸雪さまが助けてくださったんですよ」

沙也がそう言うと、弥生はちょうど玄関まできた。

「じゃあ、いってきます!」

弥生は明るくそう言うと、歩いて学校に向かう。
車は嫌いだ。四季の味わいを楽しめないし、偉そうな感じがする。
弥生は周りをゆっくりと眺めながら学校に行くことが好きなのだ。

「桜はストロベリーのムースみたいな色で美味しそうだなー」

弥生は独り言を呟いた。
いつもは幸奈がつっこみをくれるが、今日は違う。これからずっと違う。
幸奈と美華子で仲良く登校するはずだ。
昨日も幸奈にそうしたほうがいいと言った。ゆっくり歩いても40分で学校に着く。
それくらい近い距離なのだ。わざわざ車で行くことはない。
弥生はすぐに学校についた。
まだまだ7時40分だれもいない。しかし、弥生は話しかけられた。

「あの…相模弥生ちゃん?」