わたしの想いがとどくように

弥生が帰ると、沙也が出迎えた。
沙也は弥生が生まれる1年前から家政婦をしている女性で、
温和な性格をしていて、弥生は懐いていた。

「おかえりなさい」

「沙也さん、ただいま」

「またバイトですか?」

「そうです!今日は新たに仲間が出来ました」

弥生はピースしながらいった。バイトはしっかりと祖父にも話した。
祖父をなんとか説得して、出来ている。

「今日も、お夕食は幸雪さまが作ってくださったんですよ」

「本当に?じゃぁ、わたしはみんなを呼びに行くね」

弥生はすぐに自分の部屋に入り、着替えた。
ここでは、掃除も食事も洗濯も全部雇っているメイドや執事が沢山いる。
だが、祖母の料理に敵うシェフはいなかった。
沙也は、弥生と一緒に部屋に入る。着替えると、沙也に誰がいるのかきいた。
そして1人1人の部屋に行く。
幸奈と幸乃の母、自分の母、祖父と祖母、祖父は厳しいが、孫には1人1人に愛情を持っていた。

「お祖父さま、お祖母さま、お夕食ですよ」

「弥生か」

祖父は後ろを見ずに言った。凄い、流石は祖父だ。
2人の部屋には、昔の本が沢山ある。たまに借りる。弥生は夏目漱石が好きだ。
明るかったり暗かったりするが、坊ちゃんが一番好きで、よく読んでいた。
祖父はベランダに座っていた。弥生は隣りに正座した。

「はい」

「今日はどうだったんだ?」

「楽しいかったです」

弥生は笑って見せた。祖父は、その笑顔を見て笑った。
祖父はめったに笑わない。でも、弥生が笑うと笑いかけてくれた。
それは4歳のときから…少し話してから、弥生は立ち上がった。

「じゃあ、私は幸奈を呼びにいきますね」

「そうか」

弥生は幸奈の部屋に上がった。少し深呼吸して扉をあけた。

「幸奈!」

弥生が部屋に入ると、幸奈は勉強をしていた。
弥生に気がつくと、眼鏡を外した。

「弥生」

「夕食が出来ましたって」

「そう」

幸奈が立ち上がると、首に付けているネックレスを外した。

「ネックレスしてたんだ」

「今更か?一緒に買っただろ?」

「でもしてないって思ってたし…」

「お守りだろ。つけなくちゃ意味がない。
でもお前がそうやって同じものつけてたら、お祖父さまはお前をここから放すだろ」

そうだ。幸奈の言っている事が正しい。

「そうだよね、なんだ私、幸奈は私に合わせてくれただけだと思っていたのに、ありがとう」

「なんだよ、当たり前だ。お前は大事な家族だから」

弥生の頭を撫でた。弥生はぐっと唇を噛んだ。
泣かないようにとしていたら、これがくせになった。そして笑った。