恋愛うんぬんは、頭の固いfirstのおばあちゃんたちには、わからないだろうし。

そもそも、言うつもりもないわけで。

「二ノ宮は進路決めた?」

「え?」

入学してから二年半と言うことは、あたしたちは高校三年生。

そーいやぁ、人間は進路とか決めたりできる時期だった。

あたしには自由はないから、すっかり忘れてた。

担任も進路希望とか言ってたっけ。

「まだ、決めてないやないよ。綾瀬くんは?」

「きっと近くの大学に行くだろうな。浪人とかやだし」

「綾瀬くん頭いいからきっとどこでも受かるよ!」

「そんなことないさ」

あたしにニカッと笑いかけてくる綾瀬くん。

ポッ。

その笑顔、素敵すぎます。

顔が赤くなるのを感じる。

綾瀬くんは校内でトップクラスの成績だ。

頭が良くないわけない。

「顔、赤いけど大丈夫?」

「だだだ、大丈夫ですっ!」

綾瀬くんが心配してくれた。

すっごく恥ずかしい。

「次は南河原ー南河原ー」

降りる駅に着いたようだ。

ぎゅうぎゅう詰めの満員電車から、ようやく、解放される。

でも、それは同時に綾瀬くんと二人っきりで話せなくなるってこと。

綾瀬くんは容姿端麗。

すっごくモテる。

だから、電車以外ではなかなか話せないんだよね。

ちょっと寂しいけど話の続きはまた明日。

別れの言葉も告げずあたしたちは、ごった返す車内から外へ出た。

「おっはよーーー山花!朝から熱いねぇ」

駅を出たところで、後ろから元気な声。

きっと笠原 優里(カサハラ ユリ)だ。

優里はあたしの友達で、あたしが綾瀬くんを好きなのを知っている。

全く朝からやなやつに会ったなぁ。

「優里、うるさいよ!」

後ろを振り返り優里に言う。

あまりにも大きな声だったようで、周りから変な視線を感じる。

朝から迷惑なあたしたちだった。

「んで、なんでこんな時間に優里がいるわけ?」

後ろから駆け寄ってきた優里と、並んで歩きながら学校へ向かう。

優里はいつも遅刻するか、ギリギリ間に合うかに来る。

あたしは綾瀬くんと一緒になるために、毎日早めの電車に乗っているので、優里と一緒になることなんてなかなかない。

そもそも、遅刻するとか、ちょっと信じられない。

時間に正確なのが日本人のいいところじゃないの?

「私だって、早起きしたい時ぐらいありますー。それに、今日はエステマのヒロトさんがニュース出る日だし!リアルタイムで見ないわけにはいかないでしょ!」

ほっぺに手をあてて上の空な優里。

なるほどね。

優里はジャニーズのエステマってのを溺愛してる。 

熱狂的すぎて、周りが引くほど。

追っかけになるか、迷惑を考えてやめるか、が最近の悩みらしい。

そりゃ、大好きなエステマのメンバーが出てるニュース見たさに、早起きするよね。

ちなみに、エステマにもナンバーズはいる。

たしか、No.28が入り込んでるはず。

エステマは八人構成だから、潜り込ませるなんて簡単だ。

「もー、山花聞いてる?」

優里が口をすごませる。

あたしがナンバーズのこと考えてるとき、ずっとエステマのこと話してたらしい。

「あー、ごめんごめん」

適当に流した。

「適当に流さないでよー」

バレた。

ちぇ、優里バカだからばれないかと思ったのになぁ。