エマルニア


駅から学校までの道のりは、長くはないけど近いわけでもなく、バス停3個分ぐらい。

裏道を通り、近道に大きな銀杏の木のある神社を抜ければ、あたしと優里が通う高校がすぐそこに。

他愛もない話(優里が永遠にエステマの良さを語っているだけ)をしながら、坂を上る。

入学したときは大変だったこの坂もずいぶん楽に登れるようになったなぁ。

坂の頂上に学校がある。

「夏休み山花はもう予定決まってる?」 

校門を抜けたところで、いきなり優里がニヤニヤしながら聞いてきた。

この顔は、なんか良からぬこと考えてんな。

「塾行ってないからとくにないけど。優里は塾じゃないの?」

もう高校三年生のあたしたちはそろそろ受験。

ほとんどのクラスメイトが塾へ通っている。

「お盆だけ休みがあるんだ!だから、綾瀬くんとか誘って海いこ!」

優里のちゃかすような顔はもう見慣れた。

あたしと綾瀬くんとのことになるといつも、こうなんだから。

でも、

「海かぁ」

あたしはその時、山花ではないのだろう。


できれば行きたかった。

いつも通りの校内に入り、下駄箱で靴を履き替える。

教室は3階。

階段をよいしょっと上り右から3番目。

そこが2年半暮らしてきた我がクラス。

この学校は入学してから一度もクラス替えとか、教室替えとかなかったから本当に慣れ親しんだクラスだ。

みんな仲が良い。

「おっはよー!」

教室に入るなり優里の元気な声。

みんなも返してくれる。

いつものルーチン。

「あれー優里早くなーい?」

あ、あたしと同じ反応してるクラスメイト。

やっぱり優里は遅刻すれすれってイメージがあるんだな。

「うるさいやいっ」

あたしは自分の席につき優里を見ると、みんなからからかわれてた。

こう、何度も同じネタだと、優里もボケずらいのか。

あたしの席は窓側の後ろ、と言いたいところだけど残念ながら前から2番目。

でも、2番目もなかなか眺めはいい。

今日は晴天だ。

気持ち良い朝って感じ。

くぅーっと伸びをする。

「二ノ宮遅かったね」

後ろから声が聞こえる。

あれ、この声は綾瀬…くん。

慌てて俯いた。

うはー欠伸見られた。

恥ずかしい。

「あの電車乗ってたらもっと早く着けただろ?」

後ろの席に座って話しかけてくる綾瀬くん。

あたしは俯いたまま。

恥ずかしくてそれどころじゃないんだって。

「笠原待ってたのか?」

優里なんか待ってたりしないよ、綾瀬くん。

あんな、うるさいチンパンジーどうだっていいもん。

頭らへんに視線を感じる。

俯いてた顔を少し上げて視線の方を向くと、優里の怖い顔が少し見えた。

すぐに視線反らされたけど。

うるさいチンパンジーってのに反応したっぽい。

優里、もしかしてあたしの心読めたりするの?

「二ノ宮?」

綾瀬くんが不思議そうにのぞきこむ。

「うわっほい!」

変な返事しちゃったよ、ヤバイよ。

今は優里どうこうじゃなくって綾瀬くんと話してるんだった。

なんか話さないとなんか言わないと。

「はははははっ「うわっほい!」だっておもしろっ」

爆笑されました、綾瀬くんに。

もうだめだ。

あたし、ただのおもしろい奴になっちゃったよ。

「だって、びっくりしたんだもん」

一応、言い訳してみる。

けど、綾瀬くんお腹抱えて笑ってらっしゃる。

もう、最悪。

あたしは机にぐでーっとうつ伏せ、時計をみる。

8時40分。

そろそろ、先生がくる。

ガラッ

「こらーみんな席に戻れー」

教室の扉をあけ、先生が入ってきた。

みんながわらわらと席に戻っていく。

綾瀬くんも、笑いを押し殺しながら席を立った。

綾瀬くんの席はあたしの後ろの後ろ。

ちょっと遠いけど、たまに授業中、後ろ向くと綾瀬くんと目が合うんだ。

それだけが幸せ。