「あれ、リチャードソン監督だったんだ」

私の隣でモニターを眺めていた茶髪の女性が、ぼそっと呟いた。

「ご存知なんですか?」

「あら、知らないの?
 相当有名よ」

――でも、見かけたけど気づかなかったんですよね? という言葉はごくりと飲み込んだ。

「二度、オスカーを受賞しているし。
 最近は、クライムムービーにハマってるみたい。
 私は、ギャングシリーズが好きよ。ほら、知らない? 四人組が上手く警察を巻いて、強盗を繰り返す話。
 シリーズ最新作は『ギャング イン ラスベガス』。
 テンポも良くて、風刺も効いていて、ギャングが皆スマートでかっこいいのよ、これが」

――クライムムービー好きだから、最初に自分が黒幕だと名乗ったのかしら。

テンションが上がってきた女性の話を耳にしながら、私はそんなことを考えてしまう。

でも、そんな凄い監督が、日本の――お世辞にも一流ともいいがたいような――若手記者を使ってまで響哉さんを脅して、いったい何がしたいというの――?