――く、黒幕?

それって、自分で言うことじゃないのでは……?

先生は、やれやれと髪を撫であげ踵を返す。
私が先生の後ろに隠れるようになったのは、きっと、偶然なんかじゃないんだろう。

『それは、直接Mr.スドーと話せばよいのでは?
 私に言われても、どうしようもありません、Mr.Richardson.』

諦めたのか、先生は流暢な英語を口にした。

リチャードソンって言うんだ、この人……。
っていうか、どうして先生は彼の名前を知ってるの?

『分かります。
 でも、彼は忙しい。ご理解頂けるとは存じますが、私は出来るだけ早くアメリカに戻りたいのです』

『つまり、彼を脅しているのは自分だから、協力しろ、と?
 とても、映画界の大御所がされることだとは思えませんね』

先生の軽口に、初老の男の顔色が変わる。

『大御所だろうが、無名だろうが関係ない。
 私には彼が必要なんだ、どうしてもっ』

彼の口調からは、溢れる情熱が迸っていた。