当然の顔で控え室に向かう。

その途中。

「Excuse me.」

と、ロマンスグレーの髪を持つ初老の男に話しかけられた。

先生ははて、と首を傾げ、

「ソーリー、アイ キャント スピーク イングリッシュ」(すみません、英語喋れません)

と、片言の英語を口にした。

けれども、男は諦めない。

『あなたのことは存じています。××も読ませて頂きました』

途中の長ったらしい言葉は、私には聞き取れなかった。

「人違いでは?」

先生は軽く言い做(な)そうとするが、男はその手をがしりと掴んだ。

近くで見ると意外と背が高く、威圧感がある。
がしっとした鷲鼻に、彫りの深い顔立ち。
眉間に刻まれた皺が、彼の人生を物語っているようだった。