Sweet Lover

眼鏡の奥の瞳が、きらりと光る。

「どうして、先生も響哉さんもこういう修羅場に慣れてるんですか?」

「あれ、そう見える?」

不思議だな、なんて笑ってみせる。

「そうにしか見えませんっ。
 響哉さんなんて、玄関を見ただけで、侵入者が居るかどうかを見破ったんですよ」

先生は、別段驚かない。
むしろ、楽しそうに瞳を眇(すが)めた。

「それはね。
 自分の身は自分で守れって言うのを実践してるだけ」

「度を越してません?」

「そう?
 足りないくらいだと思うけどね。
 実際、そこまで警戒していても真朝ちゃんは攫われたし、響哉は脅迫されている――。
 用心しすぎ、なんてこと、ありえないんだよ」

――確かに。
  私って、平和ボケしちゃってるのかしら――

黙り込んだ私は、差し詰めご主人からお預けをくらった子犬のように見えたに違いない。
先生はふわりと私の頭を撫でた。

「ま、こっちは慣れてるんだから。
 真朝ちゃんは安心して任せてくれればいい」

不意に耳に聞こえた優しい声は、気まぐれな春風を思わせた。